「次の席替えの時に、お前を孤爪の隣にしてもいいか?」
「…え?」

先生に集めてくれと頼まれたプリントを提出していたらぽつりと呟かれた言葉。さすがの私も動揺を隠せなかった。どういうことなのだろうと先生に聞いたら「いや、な」と後ろ髪をぽりぽりと掻いた。

「孤爪、クラスで浮いてるっぽいんだよな」
「…」

それは私も思っていたことであった。同じクラスの孤爪研磨は基本一人で、友達と話しているのは見たことがなかった。いつもゲームをしていて、常に真下を向いている。長い前髪はセンターに分けていて、視界が狭そうだなといつも思っていた。そんな孤爪研磨の隣の席、か。

「委員長のお前にも助けてほしいんだ」
「…友達になって助けてやれ、と?」
「…まあ、そうなるな」

担任はそう言ってプリントに目を通し始めた。言うだけ言って、拒否権はない、とのことだろうか。私は孤爪君のことを思い出した。いつも一人で、話しかけても中々返答が返ってこないと仲の良い子は言っていた。

「分かりました。それでは失礼します」
「おう、助かるわ」

片手をあげて私には視線を向けない担任を一瞥し、職員室を後にした。ほ、と一息つく。誰が隣になろうと同じだと思っていたけれど、そうか。孤爪君の隣…か。1年生の時、クラスは違ったが、見たことはあった。上級生の人と話していて、なんとなく楽しそうだったからあまり気にも留めていなかったけど、同じクラスになり印象はガラりと変わったのだ。こんなにも喋らない人だったとは。きっと人見知りなんだろう、クラスの子が話しかけた時に一瞬びくりと体を震わせていたのを私は見たことがある。

「人見知り、か」

ぽつりと呟き、周りに人がいたことを思い出す。慌てて口を手で覆ったが、誰も自分を見るものはいなかった。そのまま何もなかったかのように歩き出し、教室に戻った。「あ!」と大きな声で私に手を振る友達。私も手を振りかえし、「ただいま」と友達のほうに歩いていく。私の友達は可愛い。愛想の良い笑顔で、いつも私を迎えてくれる。私も負けじと笑顔を見せた。

「まーた担任にパシられたんでしょ」
「当たり」
「あの人事ある毎(ごと)にさ、委員長、委員長ってさー。ムカつくよね」
「そんなことないよ。委員長になったんだもん、仕方ないよ」

私は1年の時『委員長』という役柄をしていて。1年の頃に仲良かった女子や同じクラスだった男子に推薦され委員長となった。やることも1年と変わらず、私も別にいいと思っていた。別に不自由なことなんてないし、名前だけで担任のパシりをするぐらいだったから。

「真面目だねーふみかはさ。もっと楽しく生きようよ!」
「私は充分楽しく生きてるよ。今だって、友達と話すの楽しいし」
「きゅんっ…良い子だな!ふみかは!」

大袈裟に私をがばりと抱きしめて、「苦しいよ」とぽんぽんと背中を叩くと離してくれた。本当、元気だなあ。ちらりと斜め前の席を見ると、孤爪君が座っていた。猫背が特徴的で、とにかく携帯を触っているかゲームをしているか。私が友達になれるだろうか、と席替えのことを思い出したが、自分が了承したのだと思い出し、そのことを考えるのはやめにした。

20151004




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