「9月かー、夏休みもう終わりかよ!」
「課題全部やったのかー?」
「わ、夜久さん!や、やあ終わったかなあ…」
「おいこら」

相変わらずバレー部は騒がしくて、俺は携帯の画面をただただ見つめていた。とうとう始まる、新学期。

「何見てんだよ研磨ー!」

がばりと俺の肩を持って携帯の中を見てきた虎。ぱっと俺は隠す。「おい見せろよ!」なんて大きい声を出して、周りに迷惑だ。
虎はほっといてスタスタと歩き出す。全く、新学期だから少しは気持ちを入れ替えてほしいところだ。
教室に入って、あの席へと座る。相変わらず、ここは景色がいい。それで端っこだから、最高の席じゃないだろうか。
なんて考えながら、横を向く。

「おはよう、研磨くん」

彼女と隣の席になって、かかさず挨拶してくれた。それがまた、新学期でも始まるみたいだ。

「新学期だけど、久しぶりって感じしないね」
「確かに」
「研磨くん私のところ、よく来てくれたもんね」
「…そういうの別に言わなくていいよ」
「私の誕生日にはプレゼントくれたし」
「もう、ふみか」
「ああそれとね、バイト先の配慮で、またそこで働けることになったんだ。また研修から始まるけど」

すごく嬉しそうだった。なんでも、バイトをしておばあちゃんに少し高いプレゼントを贈るらしい。おばあちゃんの煮物は大好物だと入院している時によく話してくれた。
そしてこれは結構大事なことなんだが、なんでも彼女が言うには医者に嘘をつかれていたらしい。もっと早く入院しておけばすぐ治る病気だったのに入院しないから、50%だと嘘をついた。だけど病気の進行は早くて、それはあながち嘘でもなかったみたいで。それから俺は彼女の病室へと足繁く通った。一回は私病人なんだってパシらされた。彼女はすっかり俺に素を見せてくれるようになった。夏休みの間にめきめきと回復を遂げた彼女は、今ここに座っている。

「そういえば私ね、研磨君に言ってなかったことがあるの」
「?」

彼女は、いつだって笑顔だった。
髪をゆらゆら揺らして俺のほうへ体全体を向ける。

「私も研磨君のこと、好きです」

彼女と一緒に過ごして、わかったことがある。

「…そ」

彼女は、たまに意地悪。

「研磨君、照れてる」
「別に」

だって君は俺が照れると分かっていてこのタイミングで言ったから。全く彼女も、隅に置けない。

「ね、最初に言ったよね、研磨って呼びたいって」
「…ああ」
「今日から呼んじゃお。新学期だし」
「…そうだね、席替え」
「ばっちり。手術終わったあと先生が来てね、大丈夫か?ってめちゃくちゃ心配されて、手術のこと言ってなかったからね。だから私言ったの」
「なんて?」
「私、死ぬかもしれません。だから最後に私の願い叶えてくださいって」

そしたら先生マジになってて、と彼女はくすくすと笑った。死んだら隣の席になっても意味ないのに、って。それで彼女は八百長で俺とまた隣の席になるらしい。

「やったね、また隣の席!」

それと、ミヨちゃんとも近くにしてもらうから!と彼女は笑った。

美しい花には棘があると言うけれど、優しい君には棘より毒がお似合いだ。
…だって俺はもう、君に毒されて仕方ないんだから。

20151101





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