部活が午前で終わった土曜日、暑いとネクタイを緩めながら彼女がいる病院へと向かった。部屋番号をメモした紙とその番号を交互に見て、間違っていないかを確認する。間違いなくこの部屋だ。すう、はあ、と深呼吸をして、こんこんとドアを叩いた。「はい」とか細い声。俺はゆっくりとドアを開けた。

「…ふみか」
「研磨くん…」

彼女は最後に見たときよりも痩せているようだった。腕に何個も点滴をしていて、いかにも重症患者と言った感じだ。こんなやせ細った彼女、正直見たくなかった。

「…来てくれたんだ」
「…うん」

座りなよ、とそこにあった椅子を指差したので、俺はそこに腰掛けた。しばらく無言が続いて、それを終わらせたのは彼女だった。彼女の咳が、前より酷くなっている。ぎゅうっと胸が締め付けられる。こんなにも、弱っているだなんて。

「…なんで…きてくれたの?」
「…」
「研磨君、私のこと嫌いになったんじゃないの…?」

泣きそうな顔をして俺を見つめる彼女に、俺はたまらず立ち上がった。

「嫌ってない!」
「でも…」
「あれは……担任から聞いた。また俺の隣の席に…なりたかったんでしょ…?」

なんだか言っていて、自意識過剰な言葉だなと思う。でも彼女は寂しげに笑って、「うん」とだけ。

「…ごめん」

あの時、逃げてしまってり
あの時、君を拒絶して。
彼女は力なく笑って、俺の手を出して、と言った。俺は彼女のほうに近い左手を出すと、両手で包まれた。

「いいの、嫌われてなかったんだから」
「…」
「私ね、……死んじゃうかもしれないんだ」

ぱっと顔をあげると、彼女は俯いていた。

「病気、治ってたんだけどね…再発しちゃって」
「…なんの…病気…?」
「…教えない」

言いたくないの、と彼女。ああどうして、神様は残酷だ。彼女は優しくて、こんな俺にも話しかけてくれたのに、なぜなんだ。だけど、こんなことになったのも、俺のせいなのかもしれない。

「あの時一緒にバレーしたから…?」
「関係ないよ、でも、ちょっと疲れたかな、あの時は」
「じゃあ、俺を追いかけて走ったから…?」
「…あのね」

彼女の手は、酷く冷たい。

「私の中には毒があって。それがじわじわ全身に回ってきて、こうなったの。だからあれのせいとか、これがああだったから、とか関係ないの」

ぽつり、ぽつりと明かされる彼女のこと。そうか、そうだったのか。俺と初めて話した時にはもう……。


201151101



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