「ちょっと、孤爪君!」
「?」
「こっち来て」

あのあと彼女は早退した。それから彼女は3日も来ていない。何でも熱が高くて学校に行けないらしいのだ。まあ、俺にはもう関係のないことなのかもしれない。俺は暇をもてあまそうとゲームをしていた朝のことだった。彼女の友達が俺を呼び出したのだ。そして、階段の踊り場にてやってきた。

「あんた、ふみか泣かせてんじゃないわよ!」

声が階段全体に響く。真っ赤な顔で俺を睨んだ。背丈は彼女よりも小さいのに、とても大きく見える。

「泣いた、って」
「早退した日…泣いてた…!絶対孤爪君のせいだと思ったのよ!」
「ふみかが…」

泣いた、とか。
こっちが泣きたい気分だ。

「何を言ったのよ!というかあんたふみかに何か無茶させたんじゃないの!?」
「別に何も……バレー、一緒にした」
「バレー!?」

彼女の声はキンキンと廊下に響き渡る。

「あんたふみかにバレーさせたの!?」
「?う、うん」
「…ふみか、体弱いんだよ、昔から…すぐ倒れてたもん」
「え…」
「倒れたりとかしなかったの?」
「…確かに…すぐ息切れしてた…」
「……何も言ってないんだ、ふみかは」

そうだよね、あんたに言うわけないか。と寂しそうにぽつりと呟く。俺には何も言わない。強がって、大丈夫じゃないのに何も言わなかったんだ。でも彼女は、俺のことなんて何にも思ってないんだよね、分かってる。

「あの子は、あの子はバレーとかそういう激しい運動しちゃ駄目なのよ。あんたあんだけ一緒にいたのにそれも知らないの!?」
「……」

そんなの、そんなの知らない。
彼女は何も俺に言わなかったから。彼女はいつも優しくて、俺に笑いかけてくれたから。

「でもアンタのせいで無理して…ほんとに孤爪君嫌い!」

キンキン、と耳に響くが全然内容が入ってこない。
だって俺の知らないことばかりなんだから。どうして、どうして彼女は言ってくれなかったんだろう、俺だってわかっていたのに。彼女の様子がおかしいことを。彼女は日に日に弱っていったのを。じゃあなぜ彼女はあそこで、仲良くないと言ったんだ。俺には全く分からない。俺の前で泣いた彼女は、何を考えているのだろうか。

「…こっちだって」
「は!?」
「こっちだって、いろいろあった。なのにあんたは全部知ってるわけ、じゃないの、に…そうやって、頭ごなしに怒る君のこと…俺も………嫌い」

そういうと、また怒り出した。だってそうじゃないか、俺は彼女に仲良くない宣言を先生にされていて、先生に仲良くなってくれと頼まれていたんだ。それを知っていたらこんなに怒らない。だからこの子は、何も知らないんだ。
結局彼女の友達は怒ったまま教室に帰った。何なんだ、本当に。もう俺には関係ないことなんじゃないのか。俺にはよく、分からない。やっぱり人と関わるのは苦手だ。怖い、裏切られるのが、怖くてたまらないんだ。

「…なんで浮かぶんだよ」

それでも未だに彼女の笑った顔が思い浮かぶ。彼女と一緒に話して、彼女と一緒に帰ったあの日。初めて彼女の弱いところを見た。彼女は隣に来て欲しいと言ってくれた。隣がいいと言ってくれた。
それが未だに心にこびりついて。空っぽになったと思ったのに、彼女はいつまでも俺の中にいる。彼女の持っている毒に俺は犯されているんだ。


20151031




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