朝、俺の隣には彼女は座っていなかった。やはり体調が悪くて…。病院にでも行ったのだろうかと俺は席についた。ぼんやりと外の景色をみていると、ドシドシと足音が。ぱっと振り向くと彼女の友達が来ていた。

「孤爪君、あんたちょっと調子乗りすぎじゃない!?」
「…え?」
「ふみかが優しいからってさ、いっつも二人で話して…私にも孤爪君の話ばっかり」

そうなんだ、俺の話ばかりしてくれているのか、彼女は。トクンと心臓が鳴った。

「まあ次の席替えで離れるだろうけどね、これで私はふみかを独占するんだから!」
「う、うん」
「あんたなんかに渡さないわよ!」
「…」
「まああんたがふみかのことが好きって言うなら別だけど」

好き?
俺が、ふみかを?
…好き、か。
考えまい考えまいとそらしていた感情がふつふつと湧き上がる。俺は、彼女が…。ぱっと顔をあげると、マスクをした彼女がいて、友達の肩をぽんと叩いた。

「おはよう、二人とも仲良かったんだね」
「おはようふみか〜!!ぜーんぜん仲良くないよ!こんなやつと仲良くしたくないね!」
「ちょっと、その言い方はよくないよ」

ごめんね〜と言って彼女に抱きついた。凄い強烈なキャラクターだ。さっきの俺に対する態度とは全然違うじゃないか。彼女は咳をしながら席につく。「休みかと思った」と言うと、「休まないよ」とニコリと笑った。

「席替えまで日にち少ないし、研磨君とたくさん喋りたいから」

きゅっ、と何かが締め付けられたような感覚だった。彼女の友達は「私をおいてイチャイチャしないで〜」とぎゅっと彼女を抱きしめた。「ごめんね、ミヨちゃんとも喋りたいよ」と頭を撫でてあげると嬉しそうにミヨと呼ばれる女はきゅっとまた抱きしめた。


「おっ、孤爪いいところに。これ多目的教室に運んどいて」

そこにいた先生に地球儀と資料を持たされた。いまからジュースを買いに行くところだったのに。まあいいか、と多目的教室まで歩き始める。途中職員室を通るから、階段を下りないと。下りた瞬間、担任の後ろ頭が見えて、何をしているんだと思ったらふみかと話していた。

「どうだ?孤爪とは」
「…えっと」
「俺の完璧な作戦で孤爪と仲良くなれたか?」

完璧な作戦?
俺と仲良くなれた?

「すまんな、孤爪と仲良くしろみたいなこと言って」
「いえ」
「これで孤爪ももっといろんなやつと仲良くなれたらいいんだけどな」
「そうですね」
「で、仲良くできたのか?どうせ仲良くなろうねみたいなこと言ったんだろ?」
「…まあ、はい」

…え。
ふみかは、ふみかは俺と仲良くなりたくて、話しかけていたんだよね?
担任に言われて、仕方なく仲良くなろうとしていたの?じゃあ、今までの言葉は何?あの時の笑顔は何?全部作ってたの?優しい君は、それだけじゃなかった…?

「おお、それで、仲良くなれたのか?」
「…まだ、全然です。…だから、」

ぼとっ、と資料を落とした。
二人はこちらを向いて吃驚したように俺をみている。俺はというとすぐに資料を拾い、多目的教室に行こうとする。

「研磨くっ…」
「…」
「聞いてたの?」

俺はその問いには答えず、スタスタと歩く。待って、と彼女の声。俺は走りだした。彼女も「研磨くん!」と俺の名前を叫んで走り出したみたいだ。…彼女と話したくない。何も、何も話したくない。彼女は俺とは仲良くないと言った。彼女の言ったことは全部、全部嘘だったんだ。はた、と彼女の顔が思い浮かんで後ろを振り向く。彼女は俺をもう追いかけてはいなかった。この感情を誰にもぶつけることはできない。きゅっと地球儀を握りしめ、そのまま多目的教室へ。


「おいっ塩谷!大丈夫か!おい、しっかりしろ!塩谷!」

廊下に血を吐いて倒れたふみかを担任は一生懸命肩を揺らして問いかけていた。


20151031




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