「バイト受かったの?」
「うん、早速明後日から研修」
「へえー…」

ウキウキしながら報告してくる彼女に頬が緩んだ。スーパーのレジをするらしく、練習しといたほうがいいかなあ?と俺に何回も聞いてきた。

「大きい声だすのは無理だけど、人に聞こえるくらいなら出せるから大丈夫だよね」
「金額を噛まずに言えたらいいんじゃないの」
「なら大丈夫だ」

彼女は大きい声を出さないんじゃなくて、出せないんだ、そうなんだ…。確かに声を張り上げるところを見たことがない。

「でも、また前みたいに咳とかでたりするんじゃない?」
「大丈夫だよー。研磨君って本当心配性だなあ」
「そうかな」
「最近ちょっと体力落ちてきたからいい運動になるかも。頑張らなきゃ」

俺には彼女がひ弱そうなイメージしかないけれど、彼女はあまり心配というか、干渉されるのが嫌みたいだ。酷いなあ、されるのは嫌なくせにするんだから。

「何考えてるの?」

彼女の隣の席になってだいぶ経った。席替え、というものはするのだろうか。

「何も考えてないよ」

俺はずっとこの席でもいいんだけどなあ。

「嘘だー。研磨君考えごとする時斜め上見るもん」
「え、俺見てた…?」
「見てた見てた」

それは癖かもしれない、気をつけないと、と思ったらまた斜め上を見ていた。ばっと顔を正面に向けると彼女はくすくすと笑って。

「嘘だよ。でもそうなんだね」
「え…」

嵌められた…。
彼女は俺のことをよく知っているんだと思ったのに。言い返そうと言葉を考えたけど何も思いつかなくて。彼女はまたくすくすと笑って体を俺の方に向ける。周りが騒がしい。

「研磨君と話すの、楽しいなあ」

ニコニコ笑いながら首を少しかしげる仕草にドキリと胸が鳴る。
その言葉は俺の脳を刺激してくらくらと視界が眩むようで、要約すると凄く嬉しい言葉だった。彼女は言葉をするりと吐き出すから、すごいと思う。俺もそんな風に言えたら…。

「…あっ、お、俺もっ…」
「委員長ー!次のロング用のプリント刷ったから取りに来てくれー!」
「はーい」

彼女はスタスタと教卓のほうに歩いて行って。俺はというと机に顔を伏せた。
心臓がこの上なくうるさい。ドクドクと今までにないくらい鳴っていて、今すぐ死ぬんじゃないかというぐらい。

「俺…何を言おうとしたんだろう…」

本当は分かっているくせに。
本当は知っているくせに。
それを認めたがらないところが意味が分からなくてもどかしい。彼女と俺の関係って、一体なんだろうか。友達?一緒に話す仲?少なくとも俺はそんなことを思っていない。

「次のLHRは私が前に立って進行します〜」

紙をぴらぴらと見せてきて、席にまた座る。髪が相変わらずぴっちりとハーフアップなところも可愛いと思うし、笑った時の三日月のような目も何だか愛しく思える。

「そうなんだ。…がんばって」
「たまに研磨君のほう見るね」
「見なくていいよ…」

照れてる、なんて俺を茶化す彼女でさえも嫌だと思わないんだから、俺はどうかしてる。
だからこの気持ちはまだ、誰にも言わない。


20151019




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