彼女のことを名前で呼んだら照れるらしいから、苗字で呼んだらそれも嫌だと言われた。よく分からない。彼女は俺が苗字と呼ぶのだと思っていたらしいが。彼女のことを、前より元気な印象を持った。初めて話した時よりもよく笑うようになった。けれどたまに辛そうな表情をしている。俺はそれを見て見ぬフリをしているけれど、俺に言ってくれないのかと、何か力になれないかと思っている。
だけど彼女は何も言わない。だから俺も何も言えない。

「研磨君がバレーしてるとこみたいな。見学に行こうかな」
「…見ないでいいよ」

ふわりと笑って彼女は次の授業の予習を始める。彼女は真面目だ。そして、委員長の仕事をよくやっている。

「研磨君ポジションどこなの?」
「……セッター」
「へえ!頭の回転が早い人じゃないとできないポジションなんでしょ?」

友達がバレー部だったからよく聞くの、と少し興奮気味に話した。俺はなんだか恥ずかしくて机の隅に目を向けながら「そうでもないよ」とだけ呟いた。

「バレー、かあ」

机に肘をつきながら彼女はまっすぐ前を向いた。その横顔は相変わらず綺麗だなと思いながら見つめているとぐりんっと顔を向けてきて。

「何?」

その白い歯を見せながら屈託のない笑顔で俺を覗き込むように見る。俺はドキリとしながら少し仰け反った。「なんにも、ない」と下を向きながら言うと「それ癖なの?」とくすくすと笑う。違う、とぽつりと呟いたけれど。きっとこんな風に見つめるのは君だけだと思うんだ。それを彼女には絶対に言わないけれど。

「げほっげほっ」

彼女が軽く咳をした。「風邪?」と聞くと、彼女は困ったように「そうかも」とだけ。きっとそれ以上触れられたくないのだろう。俺もそれ以上聞かなかった。



「研磨ー!今日こそは自主練しろよ」
「しない」

練習が終わり、ボールを片付けている。クロは何時ものように声をかけてくるけど俺は今日も突っぱねた。それを見た虎が俺を睨む。

「自主練しろよ!」
「帰る」

スタスタと体育館のドアの方まで歩いていく。虎とクロが「待て!」と走ってくるから急いでドアを開けたら。

「あっ…」
「…ふみか」

名前を呼ぶと、彼女は恥ずかしそうに笑って、「練習は終わったの?」と。コクりと頷いた瞬間、「研磨ァ!」とクロと虎ががばりと俺の背中を掴んだ。倒れそうになったがなんとか持ちこたえる。…チラり、とクロを見ると目を輝かせていて。

「おい研磨…相合傘の女の子だろ…?」
「えっちょっ研磨!」
「……お疲れ様でした」
「オイオイ逃げようったってそうは行かねーぜ?」

がしりと腕を捕まえれば逃げようがない。はあ、とため息をついて彼女を見ると、彼女はどうしたらいいのか分からない様子でこちらを見ていて。

「入ってく?」

クロはその不敵な笑みを浮かべて彼女を誘導した。


20151018







戻る



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -