そういえば今日は雨だ、と思った瞬間のことだった。
部活中、教室に忘れ物をしたことに気づいた。休憩になったのでそそくさと体育館から抜けて教室へと入る。無人だと思っていたそこには、彼女が席に座っていた。

「……あ」
「…ん?…研磨君」

俺に気づいた彼女は軽く手を振った。ぺこりと頭を下げ忘れ物を取りにいく。彼女はホチキスでプリント類を止めていた。

「…委員長の仕事?」

何かこの空気がいたたまれなくて彼女に話しかけてしまった。一瞬間を置いて、「ただの雑用」と笑顔を見せる。

「研磨君は?どうしたの?」
「…忘れ物取りに」
「ああ。お弁当忘れたんだね、おっちょこちょいだなあ」

俺の持っているものに気づいた彼女。とっさに隠したけど「バレバレ」と笑われた。

「制服以外の研磨君初めて見たなあ。新鮮だ」

ジャージ着てると益々柄の悪い人みたいだよ、と茶化してくるからそんなことない、と反抗してみた。「こわいこわい」なんて笑って見せるから、俺も怒るに怒れない。結局彼女には甘くなってしまうんだ。

「あ、あんまり引き止めちゃダメだね。練習がんばって」
「うん」

俺は踵を返して練習に行こうとした、が。くるりと彼女の方を向いて。

「いつ終わるの?」

窓を開けていたから、風がびゅうと吹く。風になびいた髪が凄く綺麗だなと思っていたら彼女はふふ、と笑った。

「まだ雑用終わんないなあ。これとあともういっこあるから。…7時ぐらいになるかも」

時計の針は6と5を指している。バレー部の練習を早めに終わらせてもらったら、もっと早く帰れるのに。

「そっか」

ぽつりと呟けば、サアアアと外から聞こえて。みたら、雨が降ってきた。「雨だ」そう言うと彼女はピクリと反応した。だけど俺はそれを気にせず教室から出て行った。去り際に手を振られて、俺は手を振ってみたんだ。彼女は顔を明るくさせ嬉しそうに微笑む。全く、こんなことで嬉しがるなんてどうかしている。

「研磨ーお前どこ行ってたんだ?」
「教室に弁当忘れたから取りに行ってた」
「そうか。あ、なんか警報出るっぽいから帰れって顧問が言いにきた」
「それで色々片付けてたんだ」

帰ってくるなりみんなネットなど片付けている。俺も慌てて片付け始めた。


雨が強い。みんな帰って行く中、俺も帰ろうと部室から出た。傘を差し、歩いていく中、ふと彼女のことが気になった。もしかして傘が無かったりするんじゃないかな。そう思ったら足が教室のほうに歩いていた。「どこ行くんだ?」という声に「また忘れ物したから先帰ってて」と言って歩いていく。

教室に入ると、彼女は思ったとおり席に座っていた。

「……あれ?どうしたの?研磨君」

彼女が震えているのを、俺は見逃さなかった。


20151013





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