「…本当に、後悔しないのか?」
「うん」
「…そいつがいいのか」
「うん」
「そうか」

彼はあたしを見て、フ、と笑った。踵を返して、歩いていく。走ってきてくれたんだよね、あたしがあのバイクの音嫌がってたの知ってたんだ。…ああ、泣かないって思ってたのに。あんたのために今、涙が出てくるよ。

「セナちゃん」
「…茂庭さん、これでよかったのかな」
「自分がそれでいいと思ったんなら、それでいいんだよ」

よく頑張ったね、とあたしの頭を撫でた茂庭さん。それに吃驚して、涙をボロボロ零しながら茂庭さんを見ると、「え、ダメだった!?」と撫でるのをやめた。あたしは目を擦りながら、茂庭さんの腕を掴んで頭の上に置いた。

「ダメじゃないから、やめないで…」

ぐす、ぐすと鼻水をすすりながらそう言うと、茂庭さんは頭を撫でるのを再開した。…あったかくて、落ち着く。大きくて、少しゴツゴツした茂庭さんの手。

「すき」
「え?」
「茂庭さんの、手」
「あ、手、手ね!」

吃驚した、と笑う茂庭さんに、あたしは鼻水をすすった。そのまま、茂庭さんに倒れこむように体を預ける。「えっ!?セナちゃん!?」と頭を撫でるのをやめて焦る茂庭さんが可愛くて、安心してしまう。涙も止まってきた。ああ、暖かいなあ。

「茂庭さん、好きです」
「え!?」
「手も、茂庭さんも」
「ええ!?」

これはきっと、浮気に入るんだと思う。相手に気持ちがなかったとは言え、付き合っているときにこんな気持ちになっていたんだから。でも、誰かに許してもらおうとは思わない。だって元から自分は悪い女だって分かっていたから。でも、そんな悪い女を守りたいといったのは、茂庭さんだ。

「あたしのこと守りたくなったんなら、最後まで守ってよね」
「え、えと…」
「今更撤回しても遅いから。しつこくするから」
「や、はは…」

ああ、困ってる。きっと茂庭さんはこういう意味で言ったわけじゃないんだよね。でも、あたしはこういう意味だととってるから。今更拒絶されたって、あたしは諦めたりしない。

「…俺で、いいの?」
「茂庭さんがいいの」
「…そっかー」
「あたし、ダメ?」
「えっいやいやダメじゃないよ!」

ダメ、じゃない。確かにそう言ったよね?ぱ、と顔をあげると、顔が真っ赤な茂庭さん。ど、どうしよう、あたしなれなれしくしすぎた…?離れようとしたら、茂庭さんはあたしの背中に腕を回して、ぎゅっと抱きしめた。

「も、茂庭さ」
「…さっき、別れたばっかりなのに言うのもなんだけど、さ」
「え?」
「俺でよければ、セナちゃんのこと、守るよ」
「…え…」
「…わかんないかな」

体中の熱が、顔に集まってきた。どうしよう、あたしもきっと顔が真っ赤だ。分かる、わかるよ。つまりはそういうことなんだよね…?きっと周りから見たら、あたしは最低な人間で、茂庭さんは騙された人間だと思うよね。でも、周りがどう思っても良い。悪い女でいいから、あたしは茂庭さんと一緒にいたい。

「セナちゃんが、好きです」
「…も、にわ、さん…」

あたしも好きです、とぽつりと呟いたら、「もう聞いたよ」って。ああ、また涙が出てきた。でも、いいや。これは嬉しくて泣いているんだから。今だけは、とあたしは茂庭さんの背中に腕を回した。


 


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