公園に着いて、どちらからともなく座る。前と違うのは、あたしは泣いてなくて、茂庭さんのことばかり考えているということ。子供には人気がない公園なのか、子供一人いない。だけど今、彼のことが頭に過ぎった。友達がなんとかしてくれると言っていたけど、大丈夫なのかな。何だか心配になって、「ラインちょっと開いていいですか」と茂庭さんに許可をとってラインを開いた。友達に大丈夫か、と聞いたらすぐに携帯をしまおうと思いながら友達のラインを開いたら。

"ごめん、逃げられちゃった!きっと今、セナのこと探してると思う!"

ザワ、とトリハダが立った。キョロキョロとあたりを見渡したが、彼はいない。それもそうか、彼はバイクに乗っているから、来たら一瞬で分かるはず。様子がおかしいあたしに「どうかした?」と心配そうに聞いてきた茂庭さん。「何もないです」とにこりと笑って急いで返信した。"わかった"と返事をして、携帯をしまう。こんなところ、彼が来るはずがない。チラ、と茂庭さんを見ると、茂庭さんもこっちを見ていたみたいで、慌てて目をそらされた。

「何かセナちゃん、初めて見たときと大分印象違うね…」
「…ああ、あの時メイク濃かったから」
「うん、少し幼くなった気がする」
「そう?」
「うん、そっちのほうが可愛いよ」
「え」

ドキ、と心臓が跳ねた。可愛い、なんて甘美な言葉で、あたしの脳を痺れさせるんだろう。可愛いなんて初めて言われたわけでもないのに、すごく緊張してしまう。「ありがとう、ございます…」なんてスカートの裾を握り締めながらいうと、「う、うん」と茂庭さんも緊張した風に返ってきた。きっと、緊張がうつっちゃったんだ。なんか、いいなあ。こういう感じ。茂庭さんだから、こんな気持ちになるんだ。

「…茂庭さんて、何でこんなにあたしに優しいの?」
「え?」
「わざわざ女子高にきてくれたし、助けてくれたし、今日だって会ってくれたし…」

思い返せば、あたしは何てわがままなんだろう。年上だからって甘えすぎだ。よく嫌われなかったなと思う。もし嫌われたら…と考えたらゾッとしてしまった。茂庭さんはあたしを見つめ、目を細めて笑った。あ、その顔、好き。

「ほっとけなかったからかな」
「…」
「ほら、男ってほっとけない女子に弱いんだよ。守ってあげたくなるんだ」
「…あたしのこと、守ってあげたくなったの?」
「…それ聞いちゃう?」
「聞いちゃう」

茂庭さんは参ったな、と照れながら後ろ髪を掻いた。ぴょこん、ぴょこんといろんなところに跳ねている髪型さえも愛おしい。

「守ってあげたく、なっちゃった」
「…」

へへ、と笑う茂庭さんに、喉元が熱くなった。バカ、凄くバカだよ茂庭さん。こんなあたしをほっとけないとか、守ってあげたくなるなんて言ったら、あたしバカだからもっと好きになっちゃうよ。期待、してしまうよ。

「茂庭さ、」
「見つけた…!」

ビク、と肩を震わせ声のするほうに顔を向けると、彼が息をついてたっていた。え、バイクを置いて、探していたの…?とりあえず茂庭さんが隠れるように立ち上がった。きっと、茂庭さんに暴力をふるってしまうに違いない。あたしなら暴力を振るってもいいけど、茂庭さんには絶対してほしくない。

「セナ」
「…話すことはないって、言ったよ」
「俺は、あるんだ。なあセナ、今度は本当だ。暴力なんてもう振るわないから、考え直してくれよ」
「…」
「セナが気に入ってたあの花だって毎日買ってもってくるから」
「…」
「俺は、セナがいないと駄目なんだよ」
「…ごめん」

こんなに、すがりつくように話している彼を始めてみた。ああ、これはあたしのことが好きなんじゃなくて、ただ執着しているだけだ。あたしがいないと駄目、なんて。どうしたらいいの?あなたの傍には、もういけないのに。怖くて手が震える、どうにかしようと片手でおさえているけど、止まらない。そんな時、ふわりと暖かい手があたしの手を包んだ。振り返れば、立ち上がった茂庭さんがあたしの手を握っていたのだ。

「自分の気持ち、全部言うんだよ」
「…」
「大丈夫」

手の震えがおさまった。やっぱり、茂庭さんは優しくていい人だ。そして、暖かい。あたしはコクりと頷いて、手を離した。

「…あたし、もうあんたのこと好きじゃない。多分、暴力を振るわれたときから」
「…」
「でも、前みたいに花畑つれてってくれたときは、ちょっとだけ気持ちが揺れた」
「セナ」
「でも新しいぬいぐるみをあたしにあげようとしたとき、これを貰ったら、あたしはきっと一生別れられないと思ったの」
「セナ、」
「あんたも、あたしにいつまでも執着してたら、幸せにならないよ。あたしも、正直…あんたといるの、辛い」

最後の一言は、もし自分が言われたら、すごく胸が苦しくなると思う。それを彼にぶつけてしまったんだから、最後まで責任をとらなければいけない。彼の瞳が揺れているように見えた。彼は、あたしに手を差し出して、名前を呼んだ。ふるふると顔を振る。もう、あんたのとこには行けない。だって、茂庭さんがあたしの手を握ってくれたから。


 


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