「…え?」

電話越しに聞こえる、茂庭さんの焦った声で我に返った。あ、あたし、勢い余って変なこと口走ってしまった…。

「や、あの、えっと」
「…明日、会う?」
「え?」
「明日の、放課後。俺明日の放課後補習も何も無いし、セナちゃんの都合さえあえば」
「だ、大丈夫…!」

明日は、確か何も無いし。やった、茂庭さんに、会える。チラりと机の上に置いたコンビニの袋を見つめる。カフェオレのことを思い出した。ああ、そういえばカフェオレ落としちゃって、そのまま茂庭さんに拾われて持って帰られたんだ…。それとともに彼のことも思い出す。この電話が終わったら、彼から返事が来ていないか見よう。

「どこで待ち合わせる?そっち行こうか?」
「えっや、だ、だめ!」
「ええ?」
「この前の、ファミレスとかどうかな。ファミレスの前に待ち合わせみたいな」
「ああ、いいね。じゃあそこにしよっか」
「うん…!」

何だか、体が軽くなった気がする。笑みまで零れた。ぱた、とまた寝転んで、目を瞑った。茂庭さんに会える。そう思ったら急に睡魔がやってきた。「セナちゃん?」という言葉を最後に、あたしは夢の中へと誘われた。

「…う」

AM6:50。おでこに手をあてながら携帯を見つめる。彼からラインが返ってきて、"話がしたい"と来ていた。あたしは「もう話すことなんてない」と送って、身支度を始めた。ぺろりと部屋着をめくると、腹には痛々しい傷。もうすぐ治ることを祈って、制服に着替え始めた。



「セナ、校門に彼氏来てるよ」
「…え?」

放課後、もうすぐ茂庭さんに会えるとウキウキしていたのに、まさか彼が校門まで来てるとは思わなかった。窓から校門を見ると、壁にもたれかかっているのは確かに彼で、目を見開いてしまった。どうしよう、これから茂庭さんに会いに行くのに。

「あたしらがどうにかするから、セナは茂庭さんに会いに行ってきな」
「え、でも…」
「いいから」

行こ、と友達は走って行った。どうするつもりだろう。様子を見ようと窓から覗いていたら、友達は彼のほうまで走っていって、どこかに誘導させていた。このときばかりはジーンと来てしまった。ありがとう、みんな。あたしはリュックを背負って急いで学校から出た。


走って、ファミレス近くで止まる。先に来ているというラインがあったので茂庭さんを探していると、「セナちゃーん」と声が聞こえた。声のするほうに歩いていったら、そこに茂庭さんがいた。急いで走る。目の前で止まったあたしに「慌てなくていいのに」と茂庭さんは笑う。きゅう、と胸が締め付けられそうになったのを感じた。

「ファミレスは今回は入らないんだね」
「…公園で、話したいなって」
「え、じゃあ待ち合わせ公園にすればよかったのに」
「だって、そっちの高校からは遠いから」

あんまり手間取らせたくないし。それに本当は話せるならどこでもいいんだ。ただ、あの公園の雰囲気が好きなだけ。ちょっとしかたってないのに、久しぶりにあったような気になる。何だか、緊張してしまって話す言葉が出てこない。ど、どうしよう…。

「…足、大丈夫?」
「…え…?」
「痛いでしょ?」
「あ、あんまり痛くないよ。ありがとう」

自分の足を見ると、あの痛々しい傷は消えかかっていて、痛いのは靴擦れしたところぐらいだった。「うん、痛くない」というと茂庭さんは「そっか」と笑った。何か、いいなあ。隣に並んで歩いてるってのは。…そういえば、彼は先にスタスタ歩いていくから、いつも背中を見てたんだっけ。茂庭さんはあたしの歩幅にあわせてくれてるから、顔が見れるんだ。いいなあ、こういうの。胸が暖かくなる。…あ、そういえば。

「茂庭さん。この前のカフェオレ…駄目にしちゃってごめんなさい」
「ああ、全然大丈夫だよ。そういえばあれ、飲んでないなあ。家に置いたまんまだ」
「あ、じゃあ、それくれないかな」
「え?でも、もう冷たいよ」
「いいの」

茂庭さんからもらったものだから。だから、温かくなくていい、冷たくていいの。茂庭さんの目を見つめてそういうと、茂庭さんはフ、と優しく笑って、「分かった」と言ってくれた。茂庭さん、あんまりあたしのことを見てくれない、なあ。…仕方のないことだけど。

「じゃあ、また会わないとだ」
「…うん、今から行ってもいい…」
「ええ、ダメダメ。今から行ったら帰り凄い遅くなるだろうし、また今度会ったときに持ってくるから」

ああ、優しいなあ。あたしのことを気遣ってくれてる。まだ申し訳なさのほうが強いけど、茂庭さんの優しさに惹かれて、心がポカポカになるんだ。





 


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