あたしの全快祝い、ということで結局カラオケで夜まで遊んで、帰ってきた。もちろん、友達はあたしの話を聞いてくれた。最初は何て言われるんだろうと不安だったけど、「大変だったんだね」とあたしの背中を擦ってくれた。彼には、もう会いたくなくてラインで別れようと送った。家を知られているから、学校帰りに待ち伏せされているかもしれない。彼、定時の高校だからいつも外で歩いてるし。…その時はその時か。周りは住宅地だし、何かあったら誰か出てくるだろう。家に戻ってラインを見たが、まだ返信は無かった。ご飯を食べて、お風呂に入って、部屋に入ってベッドに寝転んだ。もう電気をつけるのも面倒くさくて、ベッドの近くの明かりだけつけることにした。…そういえば茂庭さんのライン、あの時から返してなかったんだった。あたしは勇気を出して、ラインを送った。「お久しぶりです」と。数十分後、「久しぶり、ほっぺた大丈夫?」と返ってきた。どこまでも優しい人だ、あたしの心配して…。「大丈夫だよ」と送るとすぐ既読がついて、そのまま電話がかかってきた。え?と思いながら通話ボタンを押すと「ごめん!」と開始早々謝られた。

「えっ、と…」
「他の人のライン開こうとしたら間違えてセナちゃんの開いちゃって、とりあえず返信返そうとしたらん通話ボタン押しちゃって」
「ああ、そうなんだ。全然良いよ」
「うん、ほんとごめんねーキモかったよね」
「ううん」

普通だ。あんなのに巻き込まれたのに、普通に話してくれる。茂庭さんだ、茂庭さんだなあ…。目を瞑ったら、そこに茂庭さんがいるように感じる。携帯から聞こえる茂庭さんの声はとても安心する。「ちょっと話したい、です」と言うと、「え?う、うん、いいよ」とキョドッたような感じで返された。そういえば茂庭さん3年だから、今の時期勉強で大変なはず。言った後後悔した、もしかして勉強してたんじゃないかって。

「あの、勉強とか…」
「ん?ああ、今休憩中だから、ちょっとぐらいなら大丈夫だよ」
「…ありがとう」
「それに、俺も心配だっし、セナちゃんのこと」

照れたのか、はは、と笑う茂庭さん。「彼氏でもなんでもないのにね」という言葉が、胸に突き刺さった。なんでもないわけないよ、茂庭さんは、あたしを助けてくれた人じゃない。

「…彼氏と、別れようと思って」
「うん」
「あと、嘘ついてごめんなさい」
「嘘?」
「足のこと…」
「ああ」

バレバレだったけどね、と茂庭さんは言った。うん、確かにそうだ、あんなの器械運動でなるはずない。友達もびっくりしていた。最近、いろんなことがありすぎて精神的に参っているのかもしれない。いや、彼が暴力をし出したのは最近のことじゃない、か。

「助けれなくてごめんな」
「え…」
「ほっぺた、痛かったよな」
「な、なんで茂庭さんが責任感じてるの…。これはあたしと彼の問題だから、気にしないでよ」
「でも、俺のせいだろ?」
「ちっ、ちがう…」
「違わないでしょ」

違う、茂庭さんのせいじゃない、あたしが全部悪い。だから、茂庭さんは何も気にしなくていい。いや、これ以上迷惑かけたくないって思ってるのに、また迷惑かけてる。消えたい、いますぐどこかに消えてしまいたい。ああでも、消えてしまったら、もう茂庭さんには会えない。

「セナちゃん」
「っ…はい…」
「セナちゃんは、もっと人に頼ったほうがいいと思う」
「…」
「…俺、頼りないけど、話ならいつでも聞くから」
「…」
「ほら、俺一個上だし?わがままも聞いてあげれるし!」

そう言って明るく笑う茂庭さんに、あたしはベッドから起き上がった。
なんで、こんなに優しいの。
こんなあたしを、ここまで優しくしてくれる人なんて、家族以外に茂庭さんだけだよ。きゅっとシーツを握った。シワになるのも考えず、ただひたすら握る。

「…たい」
「ん?」
「…茂庭さんにっ…会いたい…」

茂庭さんが、好き。




 


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