たくさんのラインや不在着信が来るかと思ったら、来なかった。しかも、ラインだって既読無視している。ここであたしが謝ったってあっちが怒るだけだ。あたしも何であの時「いらない」と言ってしまったんだろう。いつもなら受け取るのに、暴力を恐れて。だけどそれでも拒絶したということは、あたしは彼の気持ちがもう殆んど無いということなんだろう。…ああそうか、もしもらったら一生別れられないと思ったんだ。あのうさぎのぬいぐるみは机の引き出しの中にずっと入っている。そしてあの後、熱が出てしまったらしく、学校を2日も休んでしまった。友達からの心配のラインをあたしはちまちま返信しながら、布団を被った。茂庭さんに熱が出ましたって送ってみようと思ったけど、心配されたいですオーラが出てそうで中々送れない。一日に何回かのラインが、あたしにはとても心地よく感じた。すぐに返信をしなきゃいけない彼とは違って、マイペースに帰ってくる返事。…会いたい。

「っ」

バッと起き上がり、頭がくらくらする。何を、思っているんだあたしは。用がないのに会えるほどの仲でもないし、茂庭さんはただあたしを心配しているだけ。ただ、それだけなのに。時刻はPM5:15。熱は下がっているし、あとは少ししんどいだけだけど、体を動かしたくてコンビニに行くことにした。部屋着を脱いで、パーカーとスキニーを履く。一応のためにマスクをして母に「コンビニ行ってくる」と言った。「安静にしときなさい」と眉を顰めながらいう母に、「暇だから」と言って出て行った。コンビニなんて歩いて5分ぐらいだし、そんな長居はしないし良いかな。コンビニに着いて、雑誌でも立ち読みしようかと雑誌コーナーに行ったら。

「セナちゃん?」

ゆっくりと振り返ると、茂庭さんが立っていた。今度は一人じゃない、同じ制服の人が何人かいる。ヒラヒラと手を振られ、頭を下げた。…どうしよう、全身が熱くなってきた。茂庭さんがこっち来る、ど、どうしよう、何か頭がクラクラする。とりあえずマスクをすると、茂庭さんは眉をあげて。

「風邪?」
「…あ、はい」
「そっか、でもそんな薄着だったら悪化するよ」
「や、熱いから…」
「え、それって熱あるんじゃない?大丈夫?」
「だ、いじょうぶ、です…」

ああ、心配してくれてる。やっぱりね、茂庭さんなら絶対心配すると思った。茂庭さんの友人らしき人はこそこそ喋りながらも気を利かせて待っててくれている。何だか申し訳ない。

「…送るよ」
「え?」
「帰る途中で倒れたりしないか心配だし」
「あ、いや、家近いから…」
「だめ!」
「!」

だ、だめって言われた…。茂庭さんは後ろの友人達に「この子送るから先帰ってて」と言っている。「彼女かよ〜」なんていう友人達に「違うから!」ときっぱり否定した。うん、そうなんだけどね。友人達に手を振っている茂庭さんを見て目を細めた。結構、身長高いなあ…。ぽーっとしていると、「少し待っててね」と言われてジュースが置いてあるほうに行ったので、あたしはコピー機の近くで待った。お会計を済ませて、「はい」と袋を差し出された。何?と首をかしげながら受け取ると、「暖かい飲み物だよ」と笑った。

「…カフェオレ」
「あ、飲めなかったら、手温めるだけでもして」
「…これ、だいすき、です」
「そっか、良かった」

また、笑った。ぶわりとトリハダが立った。やっぱり、優しい人。どうしてこんなにあたしに優しいの。あたしは、とっくに綺麗な心なんてなくなって、汚いのに。体も、心も。親にだって嘘をついて、本音を曝け出せる人なんていなくて、体にガタがきてるっていうのに。

「今日、大丈夫だった?学校」
「…あ、休んだから…」
「え!何外出てんの。駄目じゃん」
「暇になって」
「暇になっても駄目だよ。次からは絶対しちゃいけないからね」
「…うん」

なんか、お母さんみたい。口うるさい、お母さん。そう考えると笑えてきて、フ、と笑うと「何?」と。

「お母さん」
「え?」
「茂庭さん、あたしのお母さん」
「えっ、やだなあやめてよ」

苦笑いする茂庭さんに、心が温かくなった。きっと茂庭さんの後輩、茂庭さんのこと大好きだと思う。だって、こんなに面倒見がよくて、いい人なんだもん。目が合って、ニコ、と笑うと、茂庭さんは照れたのか目をそらした。

「…俺は、男として見てもらいたいけどね」
「…」
「あっ、いや、変な意味じゃないよ!?男としては当たり前のことじゃないかな、こう思うのって!」

そうやって慌てて弁解し始める茂庭さんに、あたしはこらえきれなくなって笑ってしまった。「え?え?」と焦る茂庭さんが、何だか可愛い。あんまり、年上に見えないなあ、なんて言ったら怒るだろうか。何だろう、この気持ち。とても、落ち着く。家が見えてきて、「あそこなんで、もう大丈夫です」と言うと、「駄目、家に入るまで」と言われたので、苦笑いをした。どこまでいい人なんだ、茂庭さんって。よし、じゃあ早く家に入ろうとぱっと正面を向くと。

「セナ…」

彼が、いた。



 


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