「お前何無視ってんだよ!」
「…ごめんなさい」

茂庭さんと別れたあと、ラインを開いて、通話ボタンを押した。何回も不在着信が来ていたのを無視したのがバレて、彼はカンカンに怒ってる。堰を切ったように止まらない悪口、暴言。もう何も思わなくなった。昔はこうだったのに、とか最初は思ったけど、これが彼の本性か、と。もう逃げられなくなってしまったのだ。

「今から会えるか」
「…え?」

やっと収まったと思ったら、その言葉で。まだ夕方だけど、きっと彼と会ったらまた遅い帰りになってしまう。でも会わなかったら…。あたしは少し考え、会うことにした。いいよと言ったらいつものところで、と言われて電話を切られた。とりあえず急ごう、とズキズキ痛む足を動かした。


「おせえんだよ、クソ女が」
「いっ…」

バコッと顔を殴られた。なんで、今まで顔だけは殴らなかったのに。ジンジン痛む頬をおさえながら彼を見上げると、いつもより怒っていて、なんで?と瞳が揺れたのを感じた。「お前さ」と彼はバイクを見つめながら話し出す。

「俺のライン無視って、オトモダチもほっといて何してた?」

心臓がバクバクと言い始めて、目の前が暗くなってきた。これは、全てバレてるの?いや、そんなはずない…。ぎゅ、とリュックの紐を握りながら、「気分悪いから家に帰って寝てた」と伝えたら、「本当か?」と聞かれ、嘘をついた罪悪感を持ちながらも「うん」と頷いた。彼は「そうか」と言って、あたしから視線をはずした。きっと彼は、ラインを無視したことを怒ってるんだ。

「殴って悪かったな」
「…ううん」
「でも、次はねえぞ」

脅しのような言葉。いつからあたしは、彼のことを好きと思わなくなったんだろう。かっこよくて、強くて、頼もしかった彼。友人の紹介で知り合ったときの彼は、笑顔が似合う男だった。

「ちょっと話そうぜ。乗れ」
「うん」

メットを投げられ、あたしはそれを素早く被ってバイクに跨った。けたたましいエンジン音、これは本当にどうにかならないのかと思う。着いたのは海岸だった。寒いから、あんまり行きたくなかったのに。ここは彼とその友人のお気に入りの、場所。メットを外し、先に階段を下りていってる彼の後に続いた。彼が座った横にちょこんと座ると、「寒いだろ」ってあたしの肩を抱いた。…それでも、寒い。

「なあ、セナは浮気なんてしねえよな」
「…」
「俺だけ、好きでいてくれるよな」
「…」

彼は、たまにこういうことを言う。だから、そのたびに頭が痛くなる。友達が言っていた。「昔浮気されたことがあって、ヤってるところ目撃しちゃったらしいよ」と。だからあたしと付き合った始めも、学校の送り迎えをずっとしてくれてた。うざいからやめてほしいと思ったけど、それだけ愛されてるんだとバカなことを考えていたなあ。膝小僧の絆創膏を撫ぜながら、あたしは言った。

「それは、分からないよ」

絶対なんて言葉ないじゃない。あんたが「もう暴力なんて絶対ふるわない」と言った時だって、すぐ再開したじゃない。それに彼だってあたしの知らないところで女にあったりしているんでしょう?なのにあたしばっかり束縛していて…。青あざをつん、と触れたらビクりと震えた。痛いのだ。

「…セナ、俺は信じてるからな」
「…」

何を?
一体あたしの、何を信じようとしているの…?

「帰るか」

立ち上がった彼を見つめると、彼はニッと笑った。

「お前、俺がやったうさぎのぬいぐるみ、どうした?」

あたしと彼の間に、冷たい風がビュウ、と通った。



 


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