「今日は、本当にありがとうございました」
「いや、こちらこそ」

茂庭さんと仲良くポテトを食べ終わり、お会計。財布をだして払おうとすると、「これ」と言ってお店の紙を差し出されたのでそれを見ていると、その間に茂庭さんがあたしの分も払ったらしく、「出ようか」とあたしの背中を押した。

「ちょっ、待ってよお金…」
「いいって。女の子に払わせれないよ」
「そんな、あたしの気が」
「払われたら、俺の気だって済まないから」

でも、そうなるんだったらオムライスなんて頼むんじゃなかった。お金を無駄に使わせてしまった。「全然大丈夫だから」とニッと笑う茂庭さんに、きゅうと胸が締め付けられた。彼とだったら、割り勘かあたしが払うから。お金がないとかで、あたしが払うこともしょっちゅうだ。それにしても茂庭さんてなんて良い人なんだろう。わざわざ女子高まで来て、あたしのわがままでファミレスにやってきて、お会計代わりにしてくれて…。

「えっ、セナちゃん!?」
「っご、ごめん、何か…」

何か、何か涙出てきちゃいました。ぽろぽろと零れる涙に茂庭さんは明らかに動揺して、キョロキョロとあたりを見渡しながら、「とりあえずこっち!」とあたしの手を引っ張った。強いけど、痛いってわけではない手の握る強さ。何もかも彼と違って、虚しく感じた。行き着いた先は、人気の少ない公園だった。ベンチまで歩いて、手を離してあたしを座らせた。茂庭さんはキョロキョロとしていたけど、あたしの隣にしぶしぶと言った形で座った。

「そ、そんなに俺が払ったの駄目だったかな」
「や、違う。茂庭さんが優しすぎて、泣けてきただけ」
「…何だソレ!」

茂庭さんは吃驚したのか目を見開いていた。ぼやけた視界でもよく分かる。ああ、また迷惑かけちゃったな…。ごしごしと目を擦り、鼻水をすすろうと膝にポケットティッシュを置いて鼻水をすすった。ゴミを捨てようと立ち上がろうとしたら、ポケットティッシュが落ち、慌てて拾おうとしたら茂庭さんが拾ってくれた。「ありがとうございます」と言って受け取ろうとしたら、茂庭さんは固まったのか中々ティッシュを渡してくれない。「茂庭さん?」と呼びかけると。

「…足、どうしたの?」

びく、と体が震えた。このまま何かが起こることなく終わると思ったのに。こんな形で見られるとは。

「体育で、こうなったの」
「こんな風に…?」
「今器械運動してるんですよ」

はは、と乾いた笑みを浮かべ、ゴミを捨てに歩き出す。きっと茂庭さんのことだから、何かあったんだろうと思ってるんだろうなあ。このままどこかへ逃げたい。そうだな、星にでもなって、暗くなった夜道を照らしてあげたい。なんてバカなことを考えながら戻ると、凄く真剣な目つきで「おかえり」と言われた。

「…その足、やっぱり…」
「帰りましょうか、そろそろ」

にっと笑ってリュックを背負った。余計な心配をかけたくない。それに、なんとなくだけど茂庭さんには、暴力を受けていることを知られたくなかった。別にひょこひょこ歩いてるわけじゃないし、見栄えが悪いだけ。歩きだしたあたしに渋々茂庭さんも歩き出した。

「ねえ、セナちゃん。やっぱりセナちゃん」
「暗くなって来たね。やっぱり秋にもなると暗くなるの早いね」

紅葉に見守られながら、並木道を通る。ごめんなさい、茂庭さん。その話はあたし、したくないの。さっきからずっとブーブー振動してる携帯にも出ないでいるから、どうかその話は忘れてください。

「…あ、のさ」
「はい」
「…ライン交換しない?」
「えっ」

まさか、茂庭さんからそんなこと言うだなんて。きっと出会い目的とかじゃなくて、ただあたしを心配しているだけなんだろうな。その優しさに、また胸が痛くなった。断るのも失礼だし、彼にはバレなかったらいいやとラインを交換することにした。

「俺、頼りないかもだけど、何かあったら必ず力になるよ」
「大げさだよ…」

ほんといい人。また泣きそうになったけど我慢。茂庭さんに泣いてるところ見せたら、今さっきより倍心配かけそうだから。交換し終わり、茂庭さんにスタンプを送ると、犬の可愛いスタンプが返ってきて、可愛いと返したら「続きは帰ってからにしよっか」と言われた。ああ、まだ続くんだ、この会話。素直に嬉しいと思ってしまった。それに、もっと茂庭さんと話したくて、どこまで一緒に帰れるんだろうと考え始めた。だから、彼からの大量のラインをあたしは無視してしまっていたのだ。




 


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