「お前、生物今回あんまりとれてないな」
「……」
担任から言われた言葉。ぎゅうとスカートの裾を握りながら話を聞いた。数学は補習してもらってるからとれたけど、生物は平均より数点多いぐらい。それでも半分以上は余裕で超えてるけど。むむむ…。
「お前専門じゃなくて大学行くんだろ?しかもちょっと偏差値高いところ。大丈夫か?」
「っ…なんとかしてみせます」
屈辱的な言葉。努力してもイマイチいい方向に行かなくて、悔しい。あーあ、がんばる時期が遅かったのかな。今年からがんばろうって結構勉強してるんだけどな…。バイト減らすしか…でも大学行くための資金だし、お金は少しでも多く貯めたい…。勉強する時間をもっと、もっと増やさないと…。「望月」睡眠時間減らして朝勉強する?いやいや起きれる気しないな。「望月」ていうかもっと授業を理解しないとダメなのかなあ。寝るのはもうやめよう。「望月!」
「っはい!」
肩をぶるりと揺らしながら後ろを振り向くと、不機嫌そうな岩泉が立っていた。なんてこと、私は岩泉がいながら全く気配を感じ取っていなかったなんて…!しかも階段の前だから助かった。踏み外すとこだった。そういえば岩泉、先生に頼まれて教材運んでたな。その帰りか。
「お前何ぼーっとしながら歩いてんだ。また階段踏み外すぞ」
「ごめん…」
「…はあ。担任から何か言われたのか?」
「えっ、な、なんで」
「呼ばれてたの見てたからな」
そうだったんだ。岩泉、意外と私のこと見てんだなあ。心配してくれてるのかな、嬉しい。でもこれは岩泉には関係ないし、変に心配させるのも嫌だ。教室につき、席に座る。
「あーっと、ボランティア参加するか?って聞かれた」
「ああ、週末にやるやつか?お前参加すんの?」
「しないけど。バイトあるし」
「そうか…」
「何よ」
「バレー部強制参加なんだけどな」
「えっ」
ちょ、ちょっと待って!嘘で言ったことがメリットのあることに変わった!つまり週末のボランティアはバレー部も参加!?岩泉も参加!?こりゃ出るしかないじゃないのよ!
「お?なんだ、出んのか」
「っべ、べつに。出ない…」
「そうか。お前が出たら週末もお前と一緒にいられるんだけどな」
「……」
「残念だな」
「もっもう!出ればいいんでしょ出れば!」
顔が熱くなるのを感じながらも参加の紙をどこにしまったかとリュックを漁る。岩泉のバカ。何嬉しそうな顔してんのよ。あたしだってしたいわ。だけど険しい顔がやめれない。岩泉はどストレートにものを言うから嫌だ。付き合ってからわかったけど、遠回しには言うけど言うこと直球だから困る。…嬉しくて。
「お前って結構チョロいよな」
「…ふん。なんとでもいいなさい」
「そーいうとこ、可愛い」
「はあ!?意味がわからない、んですけど…」
可愛いって岩泉はすぐ言うんだもん!嬉しいけど!嬉しくて今にも抱きつきそうだけど!おさえるのよひかる…!
「最近素直になってきたと思ったんだけどな」
「なっ、あたしが素直じゃないって言いたいの?」
「そうだ。お前なんか我慢してるとき険しい顔するしな」
「!」
ば、バレてた…!?ニヤけないように必死に顔を作っていたことを。ぐぬぬぬ、だめだ。岩泉には隠し事なんてできない。だけどこの変態的要素は岩泉にはバレてない。まだ大丈夫。
「じゃあ各自時間になったら戻ってきてください」
その言葉とともに始まる清掃。青城の周りの地区を清掃しろとのこと。結局紙は出して、あたしは岩泉と清掃することになった。今の先生の話を聞いて岩泉を探す。あ、いた。
「いわいずみっ」
「おう。行くぞ」
岩泉の練習用の格好すごい好き。もうかっこいい。後ろから抱きしめたい。我慢するけど。
「ここらへんで草でもむしるか」
「うん」
わざわざあたしと一緒に行動してくれるとことかすごい嬉しい。他のバレー部さんも優しくていいな。そこに座り込んで、むしった草を大きいビニール袋の中に入れる。
「んで、お前は何に悩んでんだ」
「えっ」
「うまくはぐらかしたと思ってっけど、そうじゃねーから」
岩泉は、ほんとになんでも分かるんだな。私のことよく見てる。でも言えと言われたとしても。
「ごめん、ちょっと進路のことで」
「志望校のことか」
「…これ以上は言わない」
自分のことだし。
岩泉に言っても仕方ないし。すると岩泉は眉をひそめて強く草を抜いた。
「俺じゃ相談相手にもなんねえ?」
「な、そういうことを言ってんじゃ…」
「花巻にでも相談すんのかよ」
「っ、今花巻くんは関係ないじゃない!」
つい大きい声を出してしまった。なんだか居心地が悪くて立ち上がる。
「…お前は、俺に隠していることだらけだな」
「い、わいずみ…?」
「たまにお前がわかんねーよ」
「っな、何それっ」
わかんないって、わかんないって。
こっちだって岩泉に嫌われないように必死に頑張って、変態くさいところとか岩泉に店ないように必死で…!でも可愛いって言ってくれる時だってあるじゃない。なのにわからないって…!
「岩泉のバカっ」
「っおい、望月…!」
あたしはゴミ袋を持って走り出した。ばか、ばかばか。岩泉のバカ。
20151206
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