「あー、望月」
「…あたしも、ごめんなさい。大げさだよね、泣いちゃったりして」
「いや、べつに」
「大丈夫、もう聞いたりしないから、さ」

違う、こんなことが言いたいわけじゃないのに。あれ、あたし何を言おうとしてるんだろう。岩泉に好きな人は誰なのって聞く?岩泉はなんでここまでしてくれたのって聞く?違うでしょ、もっと言わなきゃいけないことがあるでしょ。なのに、もしそれを言ったら拒絶されるんじゃないかって、怖くて言えない。今の状況だって、岩泉は優しいから謝ってくれてるだけで、実はめんどくさいなとか思ってたりするんじゃないかって思うもん。もうあたしを見ないで、こんな目もはれてそこらじゅう赤い顔、岩泉に見られたくない。

「…お前さ、何か勘違いしてるよな」
「…あの人のこと好きじゃないんでしょ。分かってるよ」
「そのことじゃねーよ。バァカ」
「ばかって…じゃあ何なのよ!」

少しキレ気味にずいっと岩泉のほうに体を動かすと、岩泉ははあ、とため息をついて。

「俺は、お前が好きなんだよ!」

キーン、と響いた岩泉の声。そしてしん、と静まり返る。……え?

「は、はぁ…?何言って、」
「しらねーうちに俺の好きな奴勝手に作り上げてよ、しかも毎回俺があいつに英語貸してやったら付き合ってんの?とか好きなの?とか…そんなん言われて俺もいい気しねえわ。俺はな、お前が好きなんだ。分かったか!」

に、二回目。
二回も言った、好きって…!
開いたまんまの口はだらしなく緩んで、ニヤけに変わって。こんな必死に言ってくれる岩泉に、あたしは心臓の鼓動がうるさくてうるさくて。

「うっ嘘じゃない!?」

がばっと岩泉の手を握り締める。「うおっ」と岩泉はのけぞったけど、嬉しくてそれどころじゃない。あんなに恋焦がれて仕方なかった岩泉が、岩泉が…!や、やば鼻血出そう。いやここで出したら撤回されるかもっ…。

「嘘じゃねーよ」
「そっ、そっか…」

へへ、そうなんだ。そっかそっかと呟くあたし。何か手がじんわりと熱いなって思ったら、手を持ったまんまだった。「ごめん!」と急いで手を離したけど、岩泉は離された手を見つめて、そのままぱっとあたしを見た。岩泉の顔は、結構赤い。

「…で。お前はどうなんだよ」
「へっ、あ、あたしっ?」
「…おう」

ばくばく、心臓が鳴ってる。きゅっとスカートの裾を掴んで、口を開く。「あっあた、あたしは…」だ、駄目だ上手く言えない。恥ずかしくて、顔を覆った。ここで言わないと、言わないと…。ばっと顔をあげて岩泉を見た。

「あたしは」
「おう」
「いっ岩泉のことが…」
「…おう」
「……あー、待って、待って待って!」

ぱっと視線をそらして、スーハーと深呼吸をする。どうしても言えない。あとちょっとなのに、きっと岩泉も言ってくれるのを待っているのに。何で言えないんだろ、大丈夫なのに、言っても大丈夫なのに。きゅっと下唇を噛んで、目を瞑った。その瞬間、手に何かが触れた。ゆっくりと顔をあげると、耳まで真っ赤な岩泉があたしの手を掴んでいて、「ほら、早くしろよ」って無愛想に言った。

「…好きだ」
「……」
「岩泉が、好きだ…」

ずっと好きだったよ、と小さく呟くと、「おう」って素っ気無い返事が返ってきて。こんなときでも素っ気ないんだなあって、赤くなった頬を片手で掴んで冷やそうとしたけど、手も熱くて意味がなかった。岩泉の手が熱くて、じんわりと熱を帯びて、あ、岩泉もこんな感じなんだって思ったらドキドキしてきて。告白してきた岩泉超かっこよかったし、手をつかんできた岩泉もかっこよくて倒れそうだったし、今の岩泉もきっとすっごいかっこいいんだろうなあ。

「…いっぺんお前のまえで好きな奴いるって言ったけど、あれ嘘な。あんときはよくわかんなかった」
「えっ」
「…なんつーか、お前弄んのが楽しくてよ…。まあお前に何かしら気持ちはあったけど、だけどよ、それが好きに変わったっつーか…あー、恥じいな、こんなこと言うの」
「……そ、だったんだ…」

そうだったの…!?あたし、遊ばれてたの…!?あ、やばい、何か今ので違う扉が開いた気がする。駄目だ、本当に。あたしはきゅっと岩泉の手を握り返した。好き、好き、岩泉。大好き。この気持ち、伝われって凄く思うよ。だけど岩泉はぱっとあたしの手を離して。

「…俺と、付き合ってくれ」

キラキラ、世界は輝いて見えて。きっとこれからの毎日は幸せでたまらないんだろうなって考えて。でもそんな素直にあたしはなれないから。きっと今顔は赤くてゆでダコみたいなんだろうけど。

「仕方ないから、付き合ってあげる…」

そう言うと、岩泉は一瞬吃驚して、ハッと笑った。「生意気」なんてコツンとあたしのおでこを叩いて、ニカッと笑った。
わ、どうしよう。今の顔最高にいい笑顔。写真撮りたい〜!これからは、こんな笑顔をたくさん見せてくれるかな、写真とっても怒られないかな、こんな重症なあたしを見て気持ち悪がらないかな、あたしたちはまだまだ始まったばっかりなんだと思った。ね、岩泉。大好き。そんな気持ちをこめてニコッと笑った。


20151001





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