ど、うしよう。
あの時言った岩泉の言葉が気になって、気になって仕方ない。いやもう、かなり前だけど、一週間はたってないけど、それぐらい。
あたしのことをちゃんと見てくれてる人、そんな人いるんだって漠然と思った。そんで岩泉のあの顔、は…。

(まって、どういうことなのかいまいちわかんない!)

自分の都合のいいように解釈したら、岩泉があたしのことす、す、好き、で…。
ちょっと違う考え方というか、普通に考えてそういうやつもいるって励ましてくれた、ってことで。
ううん、あたし的には前者がいいけど、どうなんだろう。実際どっちかわかんない。言ってて照れてしまっただけかもしれないし。で、でも。

「…うふふ…」

たとえ後者でもそう岩泉に言われたことは嬉しい!嬉しくてたまらない!すっごい男前な岩泉にそんなこと言われたらふやけちゃうよ…天にも昇る勢いなんだから。

「…まーたニヤけてんな」
「わっ」

目の前にはじっとあたしを見る岩泉が、ど、どアップで…!驚いてのけぞると、少し顔を赤らめて「なんだよ」と髪を掻いた。

「にっにやけてないし…!」
「嘘つけ。ばりばりにやけてたべ」
「目の錯覚じゃない?」
「もう認めろよ」

ぷいっとそっぽを向きながらそういうと、くははっと笑い声が聞こえて、笑い声でさえもかっこいいなあって思う。
風が吹いて上に結っていた髪が揺れて、うお、と岩泉が声をあげた。

「あ、ごめ」
「…お前最近髪あげてるよな」
「あー、まあ暑いからね」
「そっちのほうが顔もよく見えるし、いんじゃね」
「………おう」

そういうことを普通に言っちゃうんだよなあ、岩泉は。変なところで照れるし。もう意味わかんない。あたしが照れるわ。

「…照れんなよ」
「はっ、照れてないっ、し…」
「あからさまな嘘つくなよな」

はあ、とため息をついてそのまま席に座る。なんかドキドキするな、席替えしてからずっとこの距離なのに。

「なんか最近来ないね、英語の教科書借りにさ」
「…あー、そうだな」

え、反応薄い。
なんかもうちょっとあるのかと思ったら、なにもない…?岩泉はあんまり言いたくないみたい。…も、もしかして。

「喧嘩したの…?」

だとしたら、すごい失礼だけど嬉しい。毎回英語の教科書借りに来てるのを見るのはすごく苦痛だったから。

「してねーよ」
「じゃ、じゃあなんで」

取り繕うように、つぎからつぎへと。あ、あたししつこいや…。岩泉はため息をついて、嫌そうにあたしをみた。

「…お前に関係ねーだろ」

ぐさ、と矢がささったみたいにその言葉は降ってきて。一瞬時が止まったみたいにしん、となって。それからじわりと喉が痛くなって、目にたまる涙。あ、やばい。ぽろ、と涙が零れて。岩泉は顔を伏せていたけど、ずず、とすする鼻水の音にばっと顔をあげて、あたしの顔を見てぎょっとした。

「お、おい」
「…そんな言い方、しなくてもいいじゃん…」

必死に声を振り絞り、あたしはがたりと席を立った。「おい!」と岩泉が叫んでいたけど今は自分に手一杯でとにかく走った。今回のは、本気で傷ついた。そりゃあ、関係ないよ。関係ないけどさあ、あたしは岩泉が好きなの。だから気になるから、そりゃしつこかったかもしれないけど…!

(きっと岩泉に嫌われた)

勝手にずいずい話に入って、勝手に泣き出して、きっと岩泉はあたしのことが嫌いになっただろう。
いやだ、でも、自分がしたことで。
こんなに走ってきても、岩泉は追いかけてきてくれないんだ。涙は女の武器と言うけれど、そんなの嘘だ。いいように聞こえるだけで、実際はみんなめんどくさがってるんだ。
もう、ほんと最悪…。あたしは違うクラスのほうまで来ていて、どうしようかとぴたりと止まったら。

「あっ…どうしたの?」

あ、Xさん…岩泉に英語を借りにきてる、及川君の彼女の。
相変わらずギャルというか、不良みたいな出で立ちなのに、それが似合ってるのがすごい悔しい。

「…別に…何もない」
「岩泉に何か言われた?」
「……べつに」

何でこの人に言わなきゃいけないの、とぷいと視線をそらした。

「…もしかしてあたしが英語の教科書借りてるのいやだった?」
「なっ、いや、その…」

心配そうにあたしを覗き込むこの人。何さ、優しい声で言ってきて、あたしは騙されないんだから…!

「ごめんね、もう借りに行かないから」
「へ…」
「岩泉に言われたから。好きなやつに勘違いされるからもう借りにくんな、って…」

にっとその人は微笑んで、ぽん、とあたしの肩を叩いた。あたしはフリーズして、涙も止まる止まる。あの無愛想な彼女は目の前にはいなくて、前より雰囲気が柔らかくなった気がする。て、いうか岩泉の好きな人…。止まったと思った涙がまたこぼれた。

「誰なのよ、お、岩泉の好きな人って…!」

好きな人がいるの知ってるし、知りたくてもあたしの知ってる人だったらきっと悔しくて泣いちゃうだろうし、ていうか好きな人ずっとこの人だと思ってたから。違うって知って、また危機を感じて。
彼女は「ええ!?」と吃驚してあたしを宥めようとしてるけど、惨めになるからしてほしくない。

「落ち着いて考えてみなよ、ほら」
「この状況、で、落ち着くなんて、無理、に決まって…ずずっ、決まってんでしょ!」

もう最悪だ。彼女にまで逆ギレして、困らせて。やってること全然変わんない。今すぐここから消えたい。岩泉に見られたくない…。

「望月!」

あたしはその声でこの人の後ろに隠れた。くんな、くんな。あたしの顔をみんな。

「おそ、岩泉。女の子泣かしてんじゃないわよ」
「……おう。すまん」
「あたしじゃなくてこの子にあやまんなさいよ」

そう言って彼女はあたしを無理やり前に立たせた。びくっと震えながら岩泉をみたら、汗かいてて、たくさん探してくれたのかなって思ったら、涙が止まっていった。岩泉は罰が悪そうに後ろ髪を掻いて、あたしをじっと見た。

「…望月、さっきは言い過ぎた。…すまん」
「……」

あたしもごめん、って言いたいのに。言えなくて。ぎゅっと黙ってしまった。彼女は気をつかったのか、「こっち」とあたしの手を引っ張ってあまり人がいない階段まで連れて行ってくれたのだ。そのまま彼女は歩いて去って行った。

20151001



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