岩泉があたしの前…その逞しい背中をずーっと見ても変と思われない…素敵…と思っていたけど。
思っていたけど。
たま〜に黒板の字が見えない。たまにね。
あたしの座高が低いからなのもあるけど。まあ、あたし身長そんな高くないし。
岩泉バレーやってるだけあって身長高い…。はあ、そういうとこもかっこいいと思う。
だけどなあ、岩泉好きな人いるんだよなあ。誰なんだろう。違う違うといってるけどあの人しか思い浮かばないよ…!

「…はあ」

他に思う浮かぶ人といえば、クラスの女子ぐらいしか…でも岩泉から話しかけに行くとかあんま無いような気がする。あっちから来る感じ。…今だって岩泉自分の席座ってるし。もうなんだかなあ、後ろなのに話しかけれないあたし。この前は友達の悪ノリで話しかけれたけど…だって、用ないのに話しかけるなんて…できるわけ…。いやいや、こんなこと思ってるから話かけれないんだ。

「…い、いわいずみ…」

ためしに呼んでみたけど、岩泉は反応が無い。…え?よく見ると教科書などを出し入れしていて、あたしには気づかないみたいだ。
こ、これって。邪魔しちゃ悪いかな…。呼んでも用ないのに話しかけんなって言われるかな…。
だ、だめだっもうそんなこと思うあたしは消えるんだ!折角席近くなったのに何も喋れないって何も進展ないじゃない!
とはいえ、大きい声で岩泉なんて呼べるはずないし。
……あたしは、岩泉の服の裾をつまんでちょんちょん、と引っ張った。

「ん?何だ?」
「……あ、…ご、ごみついてた」

ごみをとるフリをして、手を離すと、岩泉は一瞬不思議そうにしたが、「さんきゅーな」と言ってまた前を向こうとした。「あっ…」あたしはとっさに言葉が漏れて、岩泉はまた振り返る。…ど、どうしよう。別に何も用なんてないのに。

「何だよ、何か言いたいことあるのか?」

優しくあたしの目を見つめて聞いてきて、あたしは不覚にもドキッとしてしまって。きゅっと机の下でスカートを握り締めながら、「別に何もない…」と俯いた。岩泉は「はあ?」と嫌そうに言ってきて胸が痛んだ。
絶対今、めんどくさいとか思った…。

「別に引いたりとかしねーから、何だ?言ってみろ」
「……」

い、岩泉…。
すっごい、すっごい優しい岩泉に罪悪感しか出てこない。だって本当に何も無いもん。ただ、岩泉と話がしたかっただけだもん。そんなこと言われたら、あたしだって黙るしかない。でもこの黙りは岩泉は違う風にとらえるんだろうな、って考えたらこの状況を何とかしないと、と思った。

「…ひ、暇だったから…本当にそれだけ!」

顔、熱いや。
きっと今顔が赤いんだろうなーとか思いながら岩泉を見つめる。「ほんとか?」とまだ信じきれていない岩泉に「そうだよ」と少しふてくされたように言った。
…絶対引かれた。いやそれ以前になんだこいつとか思われてる。いや、めんどくさい、かな…。

「…はあ」

岩泉はため息をついて体を正面に向けて教科書を机の中に押し込み始めた。ほ、ほらやっぱり!今回は本当にダメだ…。超めんどくさい女、きっと岩泉は呆れてるんだ。もう泣きそう…。何だかいたたまれなくなって、席から立とうとしたら、岩泉がぐりんと体をこっちに向けた。

「ほれ、構ってやる」

イスに肘を置き、そのギラりとした瞳であたしを見て。あたしは一瞬わけが分からなくて固まった。い、岩泉…?そ、そんなことあるの?こんなことってあるの?とりあえず少し浮かせた体を元に戻して、口をぱくぱくとさせると、「金魚みてえ」なんて笑うからあたしは顔が熱くなって。

「あ、あつい…」

もう駄目、もう隠せそうにない。本当に重症なんだ。
あたし今すっごい岩泉が好きっていうのが出てる気がする。
岩泉、気づいてんのかな。ね、岩泉。

「あ?冷房効いてんじゃねーか」
「違う、そういうことじゃない…」

そのまま机に顔を伏せた。
上から岩泉の言葉が降ってくるけど、どうにも返事が返せそうにない。
好きだ、って叫びたい。
あわよくば、岩泉に頭を撫でられたい…。
そよそよと当たる冷房の風にあたしは髪をなびかせた。

20150927



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