期末テストも終わり、あとは夏休み!ってところで。あとあるとすれば野球の大会か…。何て欠伸をしていたら、担任がHRで言ったのだ。

「席替えするぞー」

あたしのクラスは中間が終わったら席替え、期末が終われば席替え、ということになっていて。あたしが岩泉の近くになるというビッグイベントなのだ。頼む、神よ!あたしを近くの席にして…!斜めでもいいから、あたしが岩泉を見れる席にして…!今の席じゃ遠すぎて、あんまり見えないんだよ。
担任はあみだくじを書いて来たらしく、HRが終わったあと名前を書かせて昼休みに回収して、昼に担任の授業があるからそこで席替えして、そこから授業という感じだ。
HRが終わり、みんなぞろぞろと前に歩いていく。早く書かないと、残り物に福なんてない!シャーペンを握り締め、自分が書ける場所を確保したので見る。…岩泉、端っこに書いてある…。待って、ちょ、周りみんな女子じゃんいい加減にしろ!群がるな!…ああん、岩泉の近く残ってない…。仕方ないからまあまあ近い場所に名前を書いた。
これはあみだだけど、でもさ、近くに書いたら近くになれる気がするの。…なんとなく。とりあえずカミサマにお願いしながら席についた。ドキドキする、早くお昼になってください…!

「ひかるどこに書いたのー?」
「真ん中らへん」
「あちゃー、あたし端っこだわ」
「えっ嘘もしかして…!」

岩泉君の近くじゃないよ、と友達は笑った。良かった、はあ、とため息をついて横髪を弄る。なんか、痛んできたなあ。しかも蒸し暑いし髪くくっちゃおうかな。

「あっ髪くくんの?」
「うん」
「じゃああたしにやらせてー」

イスを持ってあたしの近くに座った。体を違う方向に変えて、あたしはぼーっと真っ直ぐみた。今さっき時計見たとき次の授業まで5分あったな…それまでには結び終わるか。胸の下まで伸びた少し色素の薄い髪は何というか、そろそろ飽きてきて。中学の時短かったからそれぐらいにしようかなと漠然と考えていた。皆楽しそうに話しているなあ、と思っていたら視線の中に岩泉が。あっ、あたしを見てる…。「何よ」と強気に言うと、「なんでも」と言って席に戻っていった。一体何なの?

「はーい、できました」
「ありがと」
「ひかるちゃんが滅多にしないツインテールにしてみました〜ついでに編み込みという可愛いのもつけといたよ」
「……はっ!?」

ガタ、と立ち上がって大きい鏡があるところに行こうとしたら授業開始のチャイムが鳴った。
………み、見られた。
岩泉にあたしのこのヘアスタイルを見られた…!
羞恥とやるせなさと嫌悪感が混ざってそのまま机に伏せる。「どうしたのー?」と友達は聞いてくるけど、悪気が無いのは分かってるから何もいえない。しかも綺麗に結んでくれたし。

「なんでもない…ありがとね」

髪型ばかり気にして授業が頭に入らない。
だって、あたし小さい頃この髪型してて男子に「似合わない」とか「キモい」とか言われたんだもん。それ以来この髪型は本当に、本当に嫌いで。人にやるとか見るのは全然いいんだけど、自分がするのだけは…。
友達はそのことを知らなくて、よかれと思ってやってくれたんだし、解くのも悪いから何もしないけど、でも、恥ずかしい…!
あああ岩泉、今日だけはあたしを見ないで…!


お昼休みが終わり、ついに担任の授業。みんな何だか楽しそうな中、あたしだけは沈んでいた。近くになりたいけどこの髪型は見られたくない…としたら、あたしの前!…いやあたしの前に来たら岩泉が見れないし…。いやもうこの際近くだったら文句言わない!言わないから…!

「じゃあ右から名前言ってくぞー」

右というのはあたしたちが外から入ってくる方向で。名前がつらつらと呼ばれていき、どこなんだろうとどきどきしていたら。

「次、岩泉」

えっ、後ろから二番目!?ちょ、ちょっとまってお願い次来て次来て次来て…!あたしはいつのまにか手を組んでお祈りをするようなポーズをとっていた。担任の口元を見つめ、告げた言葉は。

「その後ろが、望月な」

……嘘。
…本当?
…本当に!?
あたしはパッと手を離して顔を覆った。やばい、今とてつもなくニヤけてる。どうしよう、嬉しすぎる…!岩泉の近く。前なのは残念だけど、どうにかして後ろを向いてもらおう。とりあえずこのニヤけをとめなきゃ…。目だけは覆わずにしていたら、岩泉と目が合って。嬉しすぎてニヤけてしまった。目だけだしていたから岩泉にはきっとバレてないと思うけど。岩泉はそのままゆっくりと目線を外した。その後、友達の名前が呼ばれた。まあまあ近いみたい。

全員の名前を呼び終わり、皆荷物だけもって席に座っている。前座っていた席の隣の隣だから移動は楽だった。心の中では天使が踊っている。なんてったって、岩泉の近くなんだもん。やってきた岩泉の背中をじーっと見る。ああ、後ろも案外良いかもしれない。だってこんな近くで岩泉が見れるんだもん。
じーっと見つめていたら、突然岩泉がぐりんっとこっちを向いてきた。

「よろしくな」

それだけの言葉、なのにあたしはとても嬉しくて、「こちらこそ」と素っ気無く返した。
皆最初は騒がしかったけど、段々と静かになった。「授業始めるぞー」という担任の言葉にみんなはノートを出し始めた。だけど岩泉はじーっとあたしを見てくるから、「何?」と嫌そうに返したら、「いや」と言ってあたしを手招きした。
何だ?と思いながら顔を近づけると、耳をとんとんと叩いていたので耳を傾けた、ら。

「…その髪」
「ひゃっ!」

ぞくぞくっとして体がよじれた。担任から「どうした?」と聞かれたけど「何でもないです!」とあたしは即答した。
…み、耳。岩泉の吐息が…!待ってあたし耳こんなに弱かったの!?岩泉の少し鼻にかかるような声が、耳元で優しく囁くように言うからへんな反応をしてしまった。つい岩泉のほうに顔を向けたら、その距離数センチで、鼻が当たるか当たらないかの距離だった。
あたしは急いで顔を遠ざけて、耳を手で覆った。少し顔が熱い。

「な、何…?」
「……や、似合ってるって言いたかった」

小さい声でぼそりと。最初からそういえばよかったのに、あたしの心臓はばくばく鳴ってて、岩泉も吃驚してるし。だ、だって今さっきのは誰がしてもこうなってた…!もっと顔が熱くなって来て、岩泉が見れなくて俯くと、「それだけ」と言葉が降って来た。顔を挙げると岩泉があたしのことをじーっとみて、「ここ、すげえな」と編み込みの部分を差した。岩泉に言われたのが嬉しいのと、今さっきの出来事で恥ずかしいのが交差して、手の甲で口を隠しながらついニヤけてしまった。

「あ、りがと…」

お礼を言うのって、あんまりなれないものだな。岩泉は優しく笑って、そのまま体を正面に向けた。…岩泉、好き、大好き。
そんなこと言われたら調子乗っちゃうんだから。

20150925


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