考えてみて、あたしがいるともいないとも言っても岩泉にとっては興味本位で聞いただけであんまり考えてないのかもしれない。ていうかあそこでいるって言ってたらあたしバレてたかもしれない。あの後席に座ったあと顔を触ったら少し熱かった。表情はポーカーフェイスできても顔の赤さは隠せないのかもしれない。注意しなきゃ、岩泉の前ではあんたのことなんてこれっぽっちも好きじゃないそぶりを見せなきゃ。
だから、今岩泉が目の前にいるけど話しかけない。あっちが話しかけてくるまで、絶対話しかけないんだから。
…無理だ。
凄い話しかけたくてたまらない。でもここで話しかけたら負けな気がする。いっそのこと知らないフリして横を通り過ぎる…?いやそれもあからさますぎる…。もう、どうしたらいいんだ!
「望月?」
「ひっ!」
ビクッと顔を向けると岩泉がこっちを向いていた。え、い、岩泉…!
「何だお前、後ろいたんなら声かけろよ」
「あっえと、気がつかなかったんだよ…」
ダメだ、なんか返答がふにゃふにゃしちゃう。ちゃんと言葉を紡ぎたいのにたじたじで何も言えなくなっちゃうのかな。
「ふーん。まあ辺り暗ぇし送るわ」
「えっや、いいよ別に」
「お前女だろ。いいから送られてろ」
「…うん」
岩泉本当かっこいいなあ。こういうことを普通に言っちゃうところですごいイケメンだと思う。何で岩泉モテないのかすっごい不思議なんだけど。及川君で霞んじゃうのかな。…あれ。
「及川君は一緒じゃないんだね」
「ああ、あいつは彼女と帰った」
「あ…」
あの人、か。
岩泉と仲いい…。
「い、いいの岩泉…好きだったんじゃないの」
「はあ?俺があいつのこと?ねえから」
心の中で凄い安心してる。違う違うって言い張ってるけど本当は違うんじゃないかって不安だったんだ。でも、今この言葉で安心できた。じゃあ、岩泉の好きな人って誰なんだろう。とぼとぼと歩きながら少し考えた。
「この時間まで何してたんだ?」
「先生と進路のこと話してた」
「ふーん」
あわよくば岩泉と同じ大学とかに行きたいけどね。まあそこまで来たら本当にきもいな。岩泉と話していられるのも今のうちなのかな。でもほんと負け戦みたいなもんだよね、好きな人いるんだし、岩泉。
「…はあ、卒業したくないなあ」
ぽつり、出てきた言葉。それは簡単にでてきて岩泉はあたしをゆっくりと見つめた。その瞳はかすかに揺れていて、どうしたんだろうとあたしは漠然と思った。
「急にどうしたんだよ」
「…みんなと離れるのが寂しいのよ」
「お前が?そんな感じしねーけどな」
「ばーか。あたしは寂しがりやなのよ」
「はっ笑えるな」
「うっざ!」
この!といって殴るポーズをとってみるが岩泉はハハハと笑いながら受身をとった。くそ、岩泉が可愛い。言動はむかついたけど可愛い。そんでもってかっこいい。どうしたの岩泉。今日も一緒に帰れて凄い嬉しいんだけど。ねえ、こんなこと言ったら岩泉どう思うかな。気持ち悪いって思うかな。
「まーでも、俺もそうだな」
「え?」
「お前と離れるの寂しいわ」
「……」
「なんてな」
岩泉、それは凄いダメな気がする。
そんなこと言って、へへへって笑って、何それ。かっこよすぎるでしょ。バカじゃないの、まだ夏だから。部活だってまだ引退してないのにさあ、卒業の話してるあたしもバカだけどさあ。その言葉、すっごい嬉しくて仕方ないよ。
「…ほんと、バカじゃないの」
顔が、熱い。
今だけはあたしを見ないでほしい。きっとすごく赤くなっていると思うから。そんで、あたしの気持ちもバレませんように。ただ、今の言葉をはっと笑うようなあたしであってほしい。だって、凄く嬉しくて岩泉に好きだって言ってしまいそうなんだ。それからあたしと岩泉は他愛の無い話までして、あたしの家まで送ってもらってしまった。岩泉が「俺と家近いな」なんていうから心が飛び跳ねた。何だか嬉しい。岩泉とあえるかもしれないって考えたら、嬉しくてたまらない。
「じゃあね、…今日はありがと」
「おう。最近素直だな」
「はぁ!?何急に…きもいんですけど」
ドキドキ、今あたしの心の中読まないで岩泉。
「ま、じゃーな。早く寝ろよ」
「あんたのほうこそっ…」
手を軽く振られ、あたしは首のところまで手をあげてそして、下げた。手を振るなんて可愛いまねできるはずなかった。ただ遠くなっていく岩泉を、見えなくなるまでずっと見つめていた。
20150918
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