木原が可愛いく思えるのって、バカな男だけじゃないと思う。だってあいつ普通に可愛いし。ただ泣き虫なところがあるだけ。そん時のあいつは超めんどくさくてうざい。うじうじうじうじ、いつまでしてんだよって。でも暫くしたらケロッとしてるから可愛いよなあ。…あれ。今の可愛いって何だろう。それにしても俺も随分と甘いものだ。俺にここまでさせるとはあいつもかなりの強者だと思う。はあ、これあげたらどうなるんだろう。それが楽しみで、足取りも軽かった。金田一にどうした?って聞かれたけど無視した。このことは絶対に誰にも言いたくない。下駄箱まで行くと、木原が見えた。あ、あそこで合流しようと考えたら、ステンッと木原は転んだ。そりゃまあ派手に。相変わらずドジだな、と思いながら駆け寄ろうとすると―――

「大丈夫?」
「あっ…はい」

手をとったのは、及川さんだった。
…及川さんが、木原のほうに。
え?何で及川さん…。てか、ありえないんだけど。何ニコニコしながら話ししてんの?木原も木原で嬉しそうだし。どうせ泣きそうになってたくせに…。立ち上がってパンパンとスカートの埃を落とした。岩泉さんに呼ばれてそのまま及川さんはそこから立ち去ったけど、木原は突っ立ったまんま。分かってる。あれだな。今のは男の俺から見てもかっこよかった。だけど、そこは俺の立ち居地じゃないの?

「朝から派手じゃん」
「あっ…国見君。おはよう。見てたの?」
「ん。及川さんに助けてもらってたな」
「…及川さんって言うんだあ…」

やっぱり。俺は袋をぎゅっと握り締めた。歩き出すと彼女も歩き出す。ねえ、バカじゃないの。そうやって助けられたらさ、すぐそうなんの?顔赤くして、ぽーっとしてさ。バカじゃん。そんなんだからすぐ捨てられるんだよ。

「…惚れた?」
「えっ…いや、そんな…」
「及川さん彼女いるけど」
「え」

彼女は明らかに残念そうな顔をした。やっぱりね。分かってたよ。彼女は泣き虫で惚れやすい。しかもああいう状況だったら結構な人が惚れると思うけど。及川さんかっこいいし。彼女は「そうなんだあ…」と少しだけ泣きそうになっていた。はあ、もうめんどくさいなあ。今回は俺は隣についてやんない。こんなんで泣かれてたらもうめんどくさいし。彼女は一足先に教室に帰っていった。はあ、とため息をついて後ろを振り向いた。

「じゃーな金田一」
「おう。…なあ、国見」
「ん?」
「何で及川さんに彼女がいるって嘘ついたんだ?」

がさ、と袋が揺れる。ぎゅっと紐を握り締めた。なんでって、そんなの金田一に教えるわけないじゃん。俺は少しだけ笑って見せて、「何でだろうね」と呟いた。俺は教室に入る。やっぱり。彼女は机に伏せて泣いていた。ぐすぐすと泣き声が聞こえてくる。はあ、とため息をついた。

「教室で泣かれても困るんですけどー」
「はーうざー」

女子がそう言うから、こいつももっと泣くんじゃん。もう時間ないからあの場所にはいけないけど、とりあえず席に荷物とかエナメルバッグを置いて、紙袋をだけ持って彼女のほうへと歩き出した。まあ、こうさせたのは俺なんだけど。だけど泣くの早すぎじゃない?そんなに好きになってたんだ。驚き。

「ねえ」
「…ぐす…な、に…」
「これあげるから泣き止めば」

紙袋をとん、と机の上に置いた。彼女は目をこすりながらそれを見て、「これなあに…?」と聞いてきた。「いいから開けてみて」と言うと彼女は紙袋の中を見た。「あ」と声をあげてそれを取り出した。

「…ぬいぐるみだ…」
「気に入ってるんでしょ?それ」

彼女がキラキラと目を輝かせて見ているのはこの前彼女と一緒のイヤホンジャックを買ったのと同じキャラクターだ。部活帰り、それを見かけてつい買ってしまった。だって、この前塩キャラメルくれたんだから、このぐらい当然だよね。彼女はとても喜んでくれたのか、「ありがとう、国見君ありがとう…」と嬉しそうに微笑んだ。すっかり涙は止まったみたいだ。なんかホッとしてる自分がいる。別に罪悪感とかはない。だって、及川さんだったら勝てそうにねーし。

20150909




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