俺とあいつが付き合っても、あまり風景は違っては見えなかった。もともと一緒にいるせいでもあるが。
やっとか、っていう奴もいれば、付き合うならさっさと付き合えよ、って怒るやつもいる。特にあいつ狙いの奴は尚更怒っただろうな。まあ、いい気味だよ。そうやって付きまとってるのが悪いんだ。
あの後、及川さんに彼女がいるというのは嘘、ということをあいつに言ったら、そうなんだ、とは吃驚していたが、別にどうでもいいやとふにゃ、と笑っていた。

「あっれ〜?国見ちゃんじゃん!」
「げっ及川さん」
「ねえその『げっ』て何!及川さん傷つく!」

自販機にて、ジュースを買いに来たら及川さんと会った。及川さんは今日も爽やかで、そんでもって凄いウザイ。

「あ、あの…及川先輩、その節はお世話になりました…」

後ろからひょこりと出てきた彼女はペコりと頭を下げた。いいのに、頭なんて下げなくても。何か思い出したらまたむかついてきた。

「君はかなみちゃん!あれ、もしかして二人上手くいったの〜?及川さんのおかげ〜?」

ほら。ニヤニヤしながら俺たちを見てる。本当うざいな。その持っている炭酸のジュースを振って及川さんにぶっかけたい。

「…こいつのこと名前で呼ぶのやめてください。不快です」
「え〜」
「不快です」

何回も言うとさすがにしょぼくれた。まあ、そりゃそうか。彼女は後ろで大丈夫なの?という顔を俺にしてきた。まあ及川さんだし大丈夫だと思う。そっと繋がれた手はじわじわと熱を帯びている。

「しっかしさあ、君たちいつも二人でいるけど、飽きないの?」
「はー。まあ何か、飽きてきました」
「えっ…」
「あははは国見ちゃんひっどーい!俺は退散しちゃお!」

バチッとウインクを俺たちに送ってそのまま歩いていった及川さん。最後の最後までうざかったな本当に。しばらくはからかわれるんだろうな、俺たちのこと。さてと、この後ろで泣きそうになっている子に頭でも撫でてやるか。

「もー。冗談じゃん。泣くなよ」
「でもっ何か、本気ぽかった…」
「本気なわけないじゃん」

よしよしと頭を撫でても泣きそうだ。はあ、もうやっぱりめんどくさいなあ。すぐ泣くくせはまあすぐには治らないもので、俺と付き合ってからますます泣き虫になった気がする。まあ俺が言いすぎるせいなんだけど。とうとう泣き出した彼女に俺ははあ、とため息をついた。
少し考えた。どうしたら彼女がすぐ泣き止むのか。だけども全然考えつかない。

俺は彼女の少し巻かれた前髪を見つめて、そっと分けておでこにキスを落とした。
彼女はすぐさま顔を赤くして目を見開いて俺を見る。あ、泣き止んだ。

「ふーん。しばらくはこれで行こっかな」
「え、え、え」
「ねえジュース買おー。俺喉渇いた」
「ね、ねえ今さっ」
「うるさいなー。別に初めてでもないんだろ」

だってお前彼氏たくさんいたじゃん。すぐ別れての繰り返しだったけど。その期間すっげえ俺むかついてたけど。
紅茶にしようと俺は心の中で決めてボタンを押した。落ちてきたペットボトルを拾って彼女を見ると、まだ真っ赤で。

「は、初めてだもん…!そ、それに国見君がするから…恥ずかしくなって…嬉しかったけど、さ」

ぶっと噴出しそうになった。
何だ、そうなんだ。
じゃあ俺が初めてな訳か。
ふうん、口角が少し上がり、彼女を見つめる。

「なっ何よっいけないの…!」

このお姫様は、本当可愛いなあ。

「お、国見」
「金田一」

俺とこいつの仲を一番祝福してくれた奴だ。

「もうジュース買わない…帰る」
「何だ?また喧嘩か?」
「違う違う」

ぷりぷりと怒る彼女の後ろをくすくす笑いながら歩き出し、金田一に「じゃあな」と手を振った。

「待ってよ」
「…」
「待ってってば」
「……」
「かなみ」

そう言うとバッと振り返った。わ、顔真っ赤だ。本当可愛いなあ。

「そうやって急に名前呼ぶの、本当ずるいんだから…!」

君が俺の名前を呼ぶ日がくるのは、いつになるんだろう。そう思いながらぽかぽかと俺のおなかを殴る彼女の頭を撫でた。

20150915






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