「私が、及川さんのことが好き…？」
「うん」

彼女は涙が止まったようで、まだかすかにしゃくりあげているが、大分落ち着いたようだ。というか、凄く吃驚している。

「何で…？」
「だって、助けられた時惚れそうになってたじゃん。どうせあの後一緒に帰ったんでしょ」
「…確かにそうだけど、でも一緒に帰ってないよ」
「…嘘だ。慰めてもらったんじゃないの」
「私あの後すぐ帰ったもん。泣くのも我慢した」
「…え」

彼女はムッとしたような顔をして俺の頬をつねった。一体どういうことなんだろう。頭がついていかないようだ。

「泣いたら、国見君にもっと嫌われちゃうかもって思って…我慢した」
「…なんだそれ」
「私国見君と離れてからたくさん我慢した。泣いたらもっと嫌われちゃうって思ったから…」

何だ。
泣いてないんだ。
そうか、そうなんだ。
今すっごいホッとしてる。トク、トクと胸が小さく波打っていくのが分かる。それが何なのか俺はわかる。今凄く、彼女を抱きしめたい。

「…もう、俺の前で以外泣くなよ。それでも泣きそうになったら絶対俺に言って」

嫌だ、一人で泣かれるなんて。
理由はしょうもなくてもどうでもよくてもいいから。ただ隣にいるだけでいいんだ、俺は。それで泣くのをずっと待ってあげて、泣き終わったらたわいの無い話をして。そんで笑いたいんだ。彼女は泣き虫なお姫様だけど、笑った顔のほうが似合う。

「…うん、分かった」

あ。
また、泣きそう。
本当今日は泣いてばかりだなあ。俺の事となると、こんなに泣いてしまうのかな。それが何だか嬉しくて、そわそわしてしまう。

「…抱きしめてもいい？」

ぶわって、顔が赤くなって。
きっとそれが肯定のサインだろうと俺はゆっくりと抱きしめた。彼女の心臓の音が少し早くて、でもそれが心地よくて。ゆっくりと俺の背中に腕を回した彼女が、とても可愛くてたまらなかった。

「ねえ、俺の気持ち気づいてる？」

これで何？とか分からないっていったら俺本当に怒るよ。彼女はぎゅっと強めにまた抱きしめて。

「ずっと好きだったんだけど」

うざい、めんどくさい、しょうもない、興味ない。散々言ってきた言葉で、彼女を傷つけた言葉。
笑った顔は可愛い。泣き顔はとんでもない。泣き虫。結構わがまま。友達友達って強調する。いちいち嬉しいことをしてくる。それを隠そうと違うことを思って言い聞かせるバカな俺。
本当、単純だよな。
俺ってさ。

「好きな子ほどいじめたくなるって、本当ガキだ」

彼女はぶわぶわと涙が溢れて、何もいう事ができないみたいで。ただ俺は頭を撫でた。ねえ、君は俺の事どう思ってるのかな。この言葉は本当は言うつもりはなかったけど、安心しきっちゃって、つい出てしまった。
彼女はえぐっえぐっと泣いていて言葉が中々作れないみたい。でも俺はお前のことが大好きだから、待ってあげる。

「わだしもっ…私も、くに、みくっんが…ぐすっ…ひっく…国見君が好きだあ……」

ホント、泣き顔とんでもないよね。
こんなぶっさいくな顔見ても好きって思うの、俺だけだろーな。

20150915