「……」
暫く目が合って、俺はそらした。金田一とともにその場から離れようとしたら、「待って国見君…」とか細い声で俺の名前を呼んだ。
「く、国見君を待ってたの」
「……」
「話したい事が」
「俺はない」
被せるように返事を返すと、途端に泣きそうになる彼女。少し胸が痛んだが、これでいいんだと思う。それ以上俺に執着しても、意味はないんだと思うから。この気まずい空気、すぐになくしてやろう。俺がここから離れればいいんだ。ぱっと視線をそらして前を向く、そのまま歩き出そうとしたら――
「ひっどーい」
及川さんの言葉が、俺の耳に突然入ってきた。
「国見ちゃんさあ、女の子にそんなこと言うなんて酷すぎでしょ〜。ほら、かなみちゃん泣きそうだしさあ」
うるさい。
「しかもわざわざ待っててくれたんだよ?なのに置いて帰ろうとするなんて…ねえ?」
うるさいうるさい。
「酷い男だ〜国見ちゃんも」
うるさい!
「行こう金田一」
「は?良いのかよ…」
「いいから」
何も聞きたくない。彼女の声も、及川さんの声も。
及川さんの言っていることは全部正論で、俺は言い返すことがない。
それでも、これは意地ってやつだ。一度言ったことはそう簡単にやっぱりやめなんてできなくて。一度離れたからにはすぐ元に戻るなんてことは嫌なんだ。
例え彼女が泣いても。
…彼女は泣いているのかな。当然か、泣かすようなことをしたんだから。
これは俺が悪いな。だって、彼女は勇気を振り絞って俺に話しかけたんだから。
ああ、俺のいないところで泣くんだ。そりゃそうか、だって彼女の隣には俺はいない。
「…」
何か、もやもやする。
バカだなあ、俺って。彼女のことをバカだと思っていたけど、バカなのは俺のほうだ。
全部全部俺のエゴで彼女を苦しめたり泣かしたり気分で一緒にいて、結局は離れていって突き放して。
でも、もう遅いか。
あの時彼女が言ったことが引き金でここまでいったけど。
彼女の性格を考えればそう言ったのは仕方なかったのかもしれない。嫌われたくないという彼女の性格からしてああいうことを言うのはまあありうる。
でも許せなかったんだ。彼女が全て悪いわけじゃなくて。
もっと自分をもってほしくて、ただ彼女が泣かないようにしたかったんだ。泣いたときすっごいめんどくさいし、うざいし、いつまでもウジウジしてきて、泣いた理由がしょうもなくて何で泣くんだろうって思って。ただただ意味が分からなくて。
でもきっとそれは嫉妬していたんだと思う。彼女の泣く理由がいつも違う人で、それが男だったら腸が煮えくり返るような思いで、女であればなんであんな性格の悪い奴らのためにって思うんだ。
「なあ、金田一。俺の事バカだって思う?」
「……今さっきのことはよくわかんねーけどさ」
金田一は空を見上げた。
「まあ国見もあの子のことが本当に嫌いとかじゃないなら、話すべきだと思う」
あの嘘をついたその日から金田一は俺たちの関係を知った。
最初はとても不思議そうに俺たちを見ていたけど、離れた俺たちを見て寂しそうにしていたんだ。
…寂しい。
彼女が隣にいない日々は、とても寂しいんだ。
20150914