朝、朝練が終わって教室に入ると彼女が男子に囲まれていた。
誰かに告白されたのか?それもただ単に集まっているだけか?
どちらにしろいい気はしない。
「これなに?」
「あいつが木原さんに告った」
「ふうん…」
ここで告るって度胸あんな。そっと男子の群れを掻き分けると同時にわっとみんな叫んだ。彼女を見ると、俯いていて。
「そっか…わかった」
告白したであろう男子はとぼとぼと席についた。辺りみんな騒がしい。なんて言ったって。
「あの木原さんが断った…」
告られたら付き合わないと、と思っているあいつが、断った。
それはみんなびっくりしていて、俺でさえもびっくりした。
またあのもやもやした日々が続くんだろうと思った瞬間だった。でも、そうか。断ったのか。
「…何で泣きそうなんだよ」
彼女は震えていた。だからこそ気になった。
「断っちゃった…どうしよう、悪口言われる」
「じゃあ今からでも取り消せばいいじゃん」
「それはダメなの…」
「めんどくさ」
意味わかんない。断っても断らなくても悪口言うに決まってるよ。一回嫌ったらとことん悪口言うもんでしょ、女子って。
「断るとか何様なの?」
言ったそばから悪口。
「ほんとありえない」
聞こえるように言って、また彼女を泣かす気なんだな。
彼女をチラりと見るとぷるぷる震えていて。ほらね、泣きそうじゃないか。
「そうやって泣けば許されると思ってんでしょ」
「あのさ」
彼女は確かに泣き虫だ。そんで泣いてる時は超めんどくさいしうざい。だけどさ。
「お前らがそうやって聞こえるように言うからこいつも泣くんじゃない?泣かせてんのお前らじゃん」
自分のことは棚に上げて言ってるのが一番許せない。途端に女子は焦ったように顔をひきつらせた。
「そうやって国見が甘やかすから木原さんも好き放題するんじゃないの?」
「は?好き放題してんのお前らだろ」
バカばっか。どうしても自分があってるって言いたいんだろうな。女子は段々顔が赤くなって涙目になっていく。
「そ、そんなに言わなくてもいいよ」
ぎゅっと袖を掴む彼女に俺はいらっときた。
「お前もさあ何でそんないい子ぶるわけ?言われてんじゃん」
「私が悪いから…」
「別に何も悪いことしてないだろ」
「みんなにはそう見えるんだよ…」
「…はあ」
ダメだこりゃ。
なんか色々めんどくさくなって彼女の手を強引に離し、席に座った。
俺は、お前を助けたかっただけなのに。
俺は、お前のためにしてやったのに。
それはただのお節介だったわけ?迷惑だったの?
もうなんか、どうでもいいや。
すっと何かが消えた気がした。
離れたくない、って思ってたのにさ。
彼女はそれから俺と距離を置くようになった。
20150913