「木原は?」
「何か女子に呼び出されてたぞー」
「また?…もう」
「なあ国見」
「何?」
「お前木原さんのこと好きなの?」

俺は答えなかった。それはどういう意味、とかバカなことは聞かない。自分の弁当と木原の弁当らしきものを持ち、それを無視して教室から出る。どこ行ったんだろう…。トイレとかか?でも、トイレに入るのは無理だし…ちょっと人気のないほう行ってみよ。非常階段や、使われてない空き部屋、中庭、やっとのことで見つけたのは、やはり人気の無い非常階段だった。

「聞いてんの?」

トゲトゲしい声。少しだけ低い女の声にピクッと耳を澄ませた。そっと壁に張ってあっちから見えないようにそーっと見る。古典的なようで、数人に囲まれた木原がいた。うわあ、やっばいやつ。俺すぐ助けに行ったほうがいいかな…。バッと飛び出そうとしたが、もう少し待ってからにしようと思った。

「だからさー。人の彼氏とんのやめてよ」
「…とってない」
「はあ?彼氏がアンタと付き合うから別れてって言われたんだけど。これどういうこと?」
「貴方の彼氏を知りません…」
「どの口が言ってんだよ!」

ダンッと壁を蹴る。ビクッと彼女は震えた。うわあ、えぐい。女子ってこんな感じなんだ。ていうかちょっとやばくない?殴られたりとかしたら困るじゃん。女の子だし。そろそろ助けようと足を出した、その瞬間。

「てゆーかさーあ。アンタと一緒にいる男は何?」

ピクッと反応し、さっと足を戻した。俺の話しに変わった…。チラりと木原を見たが、涙目だ。わ、なんか頑張ってるな。

「アンタのセフレかなんか?はー、バカだねえあの男。どうせまた新しい彼氏作んのにさー。もしかしてコキ使ってんの?あの男もそれで喜んでるとか?ぎゃははは!」

手を叩いて笑い出す女子。甲高い声が俺の耳に響いた。

「国見君のことそういう風に言わないで!」

さっきまで涙目だったのに、キッと睨んでいた。女子はそれに後ずさりをしたが、バッと手をあげようとしたため、俺はさすがに飛び出した。

「弱いものイジメサイテー」

淡々とした表情。淡々とした声。それでも女子はびくっと体を震わせた。女子を掻き分けて木原の腕を掴む。本当にかわいそうだなこの光景。まあ、自業自得でもあるわけだけどさ。

「国見くっ…」
「ほら行くよ」

綺麗に立ち去りたかったのに、女子が後ろで「きも!」とか「お姫様かよ!」とか散々喚いているからイライラして仕方なかった。これは全て彼女が告白を受け入れた結果だ。まあ今回のことは初耳だが。俺はそれ全て無視して、資料室の前まで歩いた。彼女はひっくひっくと泣きはじめた。あー。俺が来るまで我慢してたもんね。偉い偉い。ようやくその場所までついて彼女を座らせた。顔を足にうずくまらせて体を小刻みに揺らした。つい、頭を撫でてしまった。彼女のさらりとした髪の毛と、熱くなった頭。

「頑張った頑張った」

何か慰めたの久々な気がする。彼女はうん、うんと頷いた。

「くっにみ…く…」
「何」
「ごめんね…」
「…別にいいよ」

彼女は謝ってばかり。
泣き止むまで待っている俺に悪いと思ったんだろう。別にいいよ。イライラするけど、離れるほどじゃないし。

「…私の、せ、いで、国見っぐすっ、く、んの悪、ひっく、口言われちゃった…」
「だから別にいいって」

全部知ってる。全部見てたから。ああ、それで謝ったんだ、成る程。俺は弁当を地面に置いて空を見上げた。俺の事、気にしててくれたのかー。まあ、当たり前だと思うけどさ。何かこう、くるものがあるよね。暫くして、ぐしぐしと顔を手の甲で拭い、落ち着いたのかふうと一息ついた。

「すっごいずるいこと言っていいかな」
「ん」
「…嫌いにならない?」
「なんねーよ」

一度だって嫌いになったことなんて無いし。

「…国見君のこと悪く言われて、私国見君に甘えてたこと思い知らされた。離れなきゃいけないって思って。でも…離れたくない。私、それでも国見君と一緒にいたい…」

それってさ。
俺と一緒にいたいってことはさ。
友達としてって意味なの?それとも…。
深く考えないことにした。

「……別にいいじゃん一緒にいればさ。俺そんなのいちいち気にしないし」
「私といるの嫌じゃない…?」
「たまにうざいしイライラすることあるけど嫌だと思ったことは無い」
「何それ、傷つく…」

彼女はまた泣いた。けど、少しだけ笑っていた。
また頭を撫でてあげると、「変な感じだ」ってまた笑った。
…笑った顔は、少し可愛い。


20150910




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