さしずめ傍観少女A、あたしはそう思っていた。
だけど、だけどさ。あんなこと言われてずっと傍観なんて、すっごい惜しい気がする。ああ、もっと早く出会っていたら、もしかしたら、もしかしたらマネージャーをしていたかもしれないのに。

「あ〜〜潔子ちゃんが羨ましい」
「どうしたの?」
「……美人だし、何かもう、負けました」

同じ眼鏡でもこんなに違うとは…。この際眼鏡やめてコンタクトにしようか。というか、凄く視力が悪いわけでもなく、ただ自分を変えたくて眼鏡をかけ始めただけで、他に理由なんてない。アイデンティティって訳でもなかったし…。

「私は真由子可愛いと思うけど」
「っく…優しさが痛い…」

潔子ちゃんは男バレの人たちにはあんまり笑顔を振りまかないけど、あたしの前では結構笑顔。可愛いな〜って思う。何であんなにクール通してるんだろ。もったいない。ていうか、東峰旭って顔で見るようなタイプじゃない気がする。どちらかというと、性格…。

「…性格だって潔子ちゃんのがいい…」
「一体どうしたの、真由子」

心配そうに覗き込む潔子ちゃんが美しい。だってさ、もしあたしが潔子ちゃん級に美人で性格も良かったら、そりゃもう速攻東峰旭に惚れられているでしょうね。はあ、辛い…。

「あたしちょっとトイレ…」
「いってらっしゃい」

ふう、とりあえず出すもの出してから色々考えよう。なんて汚いことを考えながら教室を出た。あ、東峰旭いないや…。きょろきょろと辺りを見たけどいない。何だ、いないんだ…。はあ、とため息をつきながらトイレまで行こうとしたら、階段を下りる東峰を見つけた。あたしはなんとなく追いかけたくなって、そのまま追いかけてしまった。
どこまで下りていくんだろう。なんと外に出てしまった。何かあったんだろうか…。こっそりと後ろをつけながら東峰旭を見守っていると、急に体を下ろして、何かを持ち上げた。何だ…?どうにか見ようと頭を揺らしていると、上の部分だけ見えた。…猫?…あ、木から落ちたんだ、きっと…。
東峰旭はそれを持ってどこに行くつもりなんだろう。まさか手当てをしに?…なんか一昔前のヤンキーが雨の中捨てられた猫に傘を差して「俺と一緒だな…」とかいう漫画みたい…。

「あっ」

猫は東峰旭の手から抜け出し、走って行った。あたしはそれをハラハラしながら見ていたけど、しょんぼりとしながら帰り始める東峰旭に心が痛んだ。さて、ここまで見ておいてあれだけどあたしも帰らないと。ふう、と一息ついて踵を返そうとした、ら。

(煙くさ…)

けほっけほっと咳き込みながら帰ろうとしたら、不良軍団が東峰旭のほうに歩いていく。え、ちょ、ちょっとやばいんじゃないの…?ドキドキしながらことの一部始終を見ようとしたら。

「お前ら何やってんだ!」

若い先生が反対方向からやってきて、いそいで男たちは煙草を隠すけど間に合わなくて。えっ、これ、やばいやつ…?その声が合図になったのか他の先生もやってきて逃げようとする男子を取り押さえていた。東峰旭はビクビクしながらその横を通ろうとしたら、若い先生に腕をつかまれ「お前もだろ?」と睨まれていた。「いっいや」とビクつきながら必死に反論をしようとしているが聞かず。男たちは連行されていって、東峰旭もその一部と思われたのか、ずるずると引きずられていって―――

「待ってください!この人は関係ないです!」

咄嗟に、足が動いた。
気づいたら走って、大声出してて。
先生も東峰旭もぽかん、としていて。
あたしだけは肩で息をつきながら喋っていた。

「そこにいただけで…えっと、猫を助けてたんです!木から落ちた猫を!」

嘘はついていない。ていうか、木から落ちたかどうかはわかんないけど。
これであたしが見ていたのがバレるけど、それで東峰旭が助かるなら、それでいい。
先生はあたしの必死の熱弁を信じてくれたのか、東峰旭を解放した。
肩で息をつきながら、曇る眼鏡を外したら、ぼやけた視界の中、東峰旭がすぐ近くに着ていることがわかった。

「あ、ありがとう…青木さん」

下から見るとすっごい顔だなあ、やっぱりまだ怖いや。
でも、ありがとうって言ってもらえるのは、すっごい嬉しい…。

「べ、つに…あたしも勝手に見ててごめん…」
「ううん、いいんだ、それで俺は解放してもらったし」
「……」
「ちなみに猫は木から落ちてないよ」
「うそ!」
「普通に怪我してるの見つけておりてきただけ」

東峰旭ってヘタレだと思ってたけど、優しいところもあるんだなあ。
何だか胸がとくんとくんと鳴って、動悸が激しくなってきた。

「…もどろっか」

へへ、と眉が下がるような笑顔をあたしに向けて、歩き始めた東峰旭。
何だろう、凄く、貴方の背中に抱きつきたい。

20150928


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