なんとなく変な感じで別れちゃったから、東峰旭を見ても知らんぷりをしてしまう。だって、だってさあ、これでまた目が合ったら…あたしもう無理だ。とりあえず廊下にはあんまり出ないことにしようと教室のドアを閉めようとしたら。

「…澤村」
「おっす」
「何か最近よく会うね」
「お前は相変わらずでっけえ眼鏡かけてんな」
「だから眼鏡はいいって」

そんなにあたしの眼鏡が気になるんだろうか。眼鏡をとって「でかい?」と聞いてみたら「貸してみ」と言われ貸したら澤村があたしの眼鏡をかけて、「オーよく見える」と真顔で言うからぶはっと笑った。

「あんたあたしの質問無視して…それかけたかっただけでしょ…!」
「実を言うとな、そうなんだよ」
「それならそうと…くははっ…似合わない…!」

澤村があたしの眼鏡かけた姿をこんな近くで見てしまうとは。しかも全然似合ってない。すっごい偏見だけどセールスマンみたい。笑いが止まらないので眼鏡をとってもらおうとしたら、澤村が「おい旭!来い!」なんて東峰旭を手招きした。うえっちょ、おっおい!

「さ、澤村…!」
「まあ見てろ青木」

何を見てればいいんですか!?ずんずんと東峰旭はやってくるし、澤村はあたしの眼鏡返してくれないし。あれでしょ?絶対東峰旭に眼鏡をかけさせようとして、「似合わねー!」って笑うつもりなんでしょ。もう分かってるから!分かってるからやめなさい!

「旭、この眼鏡をかけてみろ」
「え?これ青木さんのなんじゃ…」
「青木からは了承を得ている」

得てねーわ!何心の中でつっこみさせてんのよ!ぎゅっと拳を握り締めながらそれを見守る。ちょっと怖いからドアの隅に逃げる。東峰は眼鏡を開いてかけようとした、が…。

「は、入らない」

つん、つんと眼鏡をこめかみあたりにあてる東峰旭。一瞬時が止まり、澤村は大爆笑。あたしはドキドキしながら二人を見守る。眼鏡壊したらまじで許さないから…!東峰旭ははは、と少し笑ってあたしに眼鏡を返す。返したときに少し手が触れて、少しドキッとしてしまった。だって、手が暖かいんだもん。

「…眼鏡外すと雰囲気変わるね」

少し控えめに、あたしに話しかけてきた東峰旭。
…傍観してるだけでも、充分だったのに。

「…よく、言われる…」

怖い、怖いとばかり思っていたのに。
警戒しながらあたしは返答しているのに。
東峰旭は優しく声をかけてくれるんだ。

「何か顔つき中学からかわんねーよな。身長も」
「はあ?少しは変わってるでしょ」
「…二人は同中?」

そうか、知らないんだ東峰旭は。「そうだ」と澤村が言って、あたしもコクりと頷いた。へえー…と東峰旭はぽりぽりと頬を掻いた。…あたし、東峰旭とこんなに近くにいる。ドキドキと心臓はうるさいけど、段々馴れてきた。まだちょっと怖いけど、大丈夫、大丈夫。

「青木は元バレー部だぞ」
「えっそうなの?ポジションは?」
「僭越ながら…ウイングスパイカーでした…」

えっ!?とさらに驚かれた。
ですよねー、この身長で?って思いますよねー。だってあたし今でこそ160あるけど中学の頃無かったもん。
だからチビだのリベロに回れだの言われた。でもあんなに言われると心も折れてしまって。それまでは負けるか!と日々身長が伸びるという都市伝説でもなんでも試したし、なめられないよう練習もたくさんしてた。ジャンプ力はそれなりにあると思ったけど、上には上がいるんだよね。
きっと東峰旭も、こいつが?って…。

「すっげえ、頑張ったんだな。あ、俺も一応ウィングスパイカー」

へなちょこだけどな、って澤村は付け足した。おいって東峰旭は澤村につっこみを入れるけど、あたしはそんなの今どうでもよくて、ただ東峰旭が言った言葉がすっと頭の中に入って抜けなくなった。
すごい、って言われた。頑張ったんだな、って労われた。しかも、一緒のポジションだった…。
心臓はドクドクと高鳴っていって、怖い怖いと思っていた顔つきも今はそんな風に見えなくて、ただ、ただ東峰旭が。

「…あ、もう授業始まるよ!」

時計を見るフリをしてそういい、「じゃあね!」と言ってドアを閉めた。
フラフラと席につき、今さっきの言葉を思い出す。

『すっげえ、頑張ったんだな』

東峰旭のへにゃっとした笑顔と、その言葉であたしは、あたしは。

「…はあ、どうしよう」

もっと貴方と喋りたくなったじゃないか。

20150925

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