メガネをふきふき。よく潔子ちゃんと一緒にいるとメガネコンビとバカにされるけど、実際にはあたしにしか言ってない。そりゃあ潔子ちゃんに話しかけるのは恐れ多いかもしれないけどさあ、何だってあたしにばっかり言うかな。潔子ちゃんに顔覚えてほしくて必死なんだろうね。
「おいそこのだてメ」
「度入ってるし何よ」
振り向けば澤村。どんと仁王立ちして、一体あたしに何の用ですかね。はあ、とため息をついた。
「清水どこに行ったか知ってる?」
「今トイレ」
「まじか。じゃあ待ってよ」
「バレー部も大変だね。がんばれ主将」
ぐっと親指を立てるとははっと澤村は笑った。こいつもずっとバレーやってるんだよなあ、ある意味凄いわ。
「お前も元バレー部なクセしてな。こんなでっかいメガネかけるようになってよ」
「メガネ関係ないでしょ。あんたんとこにもメガネかけてる一年いるじゃない」
「知ってんの?」
あっしまった、失言だったか。口に手を当てたけど遅ず。チラリと澤村を見ると、にやりと笑っていて。
「なんだかんだ気になるんだな」
「…潔子ちゃんが言ってただけ」
嘘。潔子ちゃんはバレーの話はしてくれるけどその男の子の話はしたことない。見に行ったんだ、バレー部が気になって。練習をしているのをみていたら少しやりたくなったな。
「私がどうかしたの?」
「あ、清水。昨日来れなかったからプリント渡せなくってさ。今渡しに来た」
「ありがとう」
「そんでちょっと訂正あってさ…」
二人が話しかけて、あたしは空気みたいな感じになった。
はあ、とため息をついて立ち上がる。東峰旭いるかな、と廊下を覗いた。あ、やっぱりいる。外見るの好きなのかな。なんかかわいいところあるんだな、へなちょことか澤村言ってるけど、今なら凄い似合う。あ、雀見てるんだ。可愛いなあ。あ、飛んでった…!
「…あっ」
また、東峰旭と目が合った。
何だかそらすことができなくて、目を合わせたままにしていたら、へにゃりと笑ってこっちに歩いてくる。
…え、あたし?違う人?いやあたしか。どうしよう逃げたい!少し後ずさりしたが、東峰旭は止まらず。あたしの前で止まった。
「俺に何か用?」
「ひっ…」
近い。この前じゃあねって言ってくれた時はもうちょっと距離があった。待って近い、怖い。がたがたと震えて「な、にもないです!」と言ったら、そっか、と寂しそうに頭を掻いた。ああ、ごめん。でも怖いんだ。
「じゃ、じゃあっ…」
そのまま教室に入るあたし。
何してんだろう。折角話しかけてくれたのに。こんなことだったらバレないように見てたほうが良かった。
どくどくと心臓は鳴る。
『あんたチビなくせによくがんばるね』
そう、敵のチームから言われて、こてんぱんにされた中学三年の夏。結ちゃんにはすごく迷惑かけたな。ジャンプ力だけがあたしの得意とすることだけで、あとは全然。あたしよりも背が遥かに高くて、散々言われてバレーが無理になってしまった。叩き落とされたみたいにスパイクが決まらなくて、顔面にも当たったっけ。その時の敵チームの顔は今でも鮮明に覚えている。
『リベロしてたほうがいいんじゃない。しゃしゃりでるからそうなるのよ』
そう言われた気がして、引退をキッカケにバレーはしなくなった。そう思われてるんだっていつまでも思って、あたしよりすごく背が高い人は無理になって。
東峰旭はその人と同じ、いや東峰旭のほうが高いけど、その人とかぶって見えて、何だか怖くて。
なのに見ていたいなんて、すごくわがまま。
ごめんね、東峰旭。
20150920
戻る