「あー…知ってた、よ」
「………え」
ぱっと東峰旭を見ると、ぽりぽりと頬を掻く、いつもの東峰旭がいて。
「しってた…?」
「見られてるなって、いつも思ってた。青木さんは気づいてないと思ってたっぽいけど、俺は知ってた」
「うそっ…」
「最初は、青木さんが何かの罰ゲームでやらされてんのかと思った。でも違うっぽいなって…ていうか、あれでバレてないって思う方がおかしいってゆーか、うん。バレバレ」
「そっ、そうだったんだ…」
嘘、じゃあ知っててあたしとこんな風に接してくれてたの…?それって凄く嬉しい。でもその反面、気持ち悪いって思ってたんじゃないかって、それだけで思考がから回る。でも東峰旭は優しいから、そんなこと言えなかったんだ。だから今まで普通に話してて。でも、あれ?じゃあ何で今さっき…。
「…俺、あの時さ、助けてもらったじゃん。タバコ吸ってるって勘違いされた時」
「…うん」
「あれさ、結構勇気いるよな。その、その人はしてません!みたいな感じで言うの!…だからさ、気持ち悪いなんて思わないよ、むしろ俺のこと見ててくれたおかげで助かったんだし。ってこれ言ったな。…えっと、だから気持ち悪いとか、思わないって言いたいです」
東峰旭は頬をぽりぽりと少し照れながら掻いた。
何それ、どこまでいい人なの…?普通気持ち悪がるじゃん、近づきたくないじゃん。なのに…。
「…東峰旭はいいやつだ…」
東峰旭、なんて初めて口にしたよ。もちろん東峰旭はびっくりしたようにあたしを見ていたけど。
「こんな気持ち悪いやつがいいの…?」
へへっと自嘲気味に笑うと、「だから気持ち悪くない」って食い気味にいってきた。あたしはははって乾いた笑いを浮かべて東峰旭を見つめる。東峰旭ははあ、とため息をついた。
「仕切り直していい?」
「え…?」
それはつまり、そういうことなの?戸惑いながら東峰旭を見つめる。あ、バス停までついた。ぴたり、と二人は足を止めて。
「俺、青木さんが好きです。助けてくれた時から、ずっと」
途端に顔を赤くして、でも真面目な顔であたしを見て。ばくばくと心臓がうるさい。ていうかあの時からずっとって、何それ、反則ってやつじゃないの…?嬉しくて、嬉しくてたまらない。あの時追いかけてよかった。傍観しててよかった。やっぱりあたしは傍観少女Aだ。
「付き合ってください」
ほろり、涙がこぼれた。本当、いいやつすぎて泣けてくるよ、東峰旭。
「…はい」
震える声でそう返事をすると、「やった…」と小さくガッツポーズをして、あたしをちらりと見た。ほろほろと涙を零すあたしに「泣かないで」って頭を優しく撫でて、そんなところも好きだって思うんだよ。
「今度からは話しかけてね」
「っ、うんっ…」
たくさん話しかける。たまに傍観するかもしれないけど、きっと話しかけたくなっちゃうんだと思う。これから、ずっと…。東峰、君を見ていくから。
「お?上手くいった感じ?」
ぎくっと体を上下に動かし、ばっと後ろを見た。…烏野高校バレー部がいる。その中で主将と副主将が凄くニヤニヤしていた。
「ま、普通に考えてみてさー、大体の人がバスだよな」
ニヤニヤとしながら菅原君はあたしを見て。途端に涙が止まり熱くなっていくあたしの顔。
「死ぬ…」
フラフラとベンチに腰掛けた。東峰君はあたしに「大丈夫?」と心配そうに声をかけてくれたけど、これが見られた時の通常の反応だ、と改めて思った。
今まで見てた罰がこれだと言うのなら、あたしは十分。だってもう東峰君は、あたしの隣にいてくれるんだから。あたしは隣に座った東峰君を見て好きだ、と呟いた。
20151002
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