あたしって、バカなんだと思う。東峰旭がいたらときめいて、気づいたらずっと目で追ってる。日に日に思いは膨れていって、廊下に出る回数も増えた。きっと、いるだろうって思って…。目が合って、手を振られて…話して。他愛の無い話が楽しくて、段々と怖くなくなった。それでも東峰旭はきっと、あたしのことなんか好きじゃないんだろうって思う。だっていつも潔子ちゃんに何か真面目に話してる。いつも、いつも。それにヤキモチをやいて、そんな自分が嫌になるんだ。こんなにヤキモチやきだったのか、って程で。あたしはこんなにも東峰旭が、

「…好きなんだ」

ほろりと言葉が出てきて、雨の日の窓ガラスにキュッキュと、「好き」と書いて見る。その後すぐ消して、周りを見るけど幸い誰も見ていない。柄にもないことして見られたら恥ずかしいから、一人で雨を見つめる寂しい女にでもなってやる。幸い次の授業は比較的楽、というか就職組であるあたしには楽な授業なんていってはいけないけど、凄く気を張る授業でもなかった。雨、止まないなあ。このまま今日はバスか…。

「青木、さん」

びくっと肩が震えた。わ、曇ったガラスで見える、東峰旭が。きゅっと窓ガラスのふちを持って、ゆっくりと振り返った。「おはよ、東峰くん」あたし、ちゃんと笑顔で言ってるかな。たまにこっそり傍観してることバレてないかな、ドキドキしてたまらない。東峰旭はへにゃりと笑って「おはよう」って、頬を掻いた。やっぱり近くに来ると威圧感あるなあ。でも、何だか前より雰囲気は柔らかくなったみたいだ。こうしてあっちから来てくれるようになっただけでも、凄い進歩だと思う。あたしは嬉しくて、嬉しくて。「今日進路なんだけどさ、東峰君はあるの?」と聞いてみた。「ないな」とだけ。そうなんだ、残念。

「長くなんの?」
「なるなあ。この前結構かかったから。あ、バレー部と同じぐらいに終わっちゃうかもだ」

あはは、って笑うと、東峰旭は何か思いついたようにぱああと顔を明るくさせ、「あのさ、」と話を切り出した。

「それだった、らさ…い、一緒に帰らないっ?」

ぎゅっと胸を鷲掴みされたような痛みに、あたしはくらくらした。い、今。一緒に帰ろうっていった…?嘘、そんな、そんなことがあるなんて。何かあるのかなって疑ってしまう。嬉しいけど、それをあんまり見せないように、「いいよ」と素っ気無く返事して顔を窓ガラスのほうに向けた。どうしよう、嬉しい。嬉しくてたまらない。だって、東峰旭と一緒に、帰れるなんて…。

「や、やった」

東峰旭は嬉しそうに微笑んで。嘘、なんか、あたし凄い顔が熱くなってきた。嬉しい、東峰旭が嬉しそうで、あたしも嬉しい。雨止まないかなあ、そしたらもっとゆっくり東峰旭と話ができるのに。

「…進路の話、聞きたくてさ」
「そ、っか]

何だ、そういうことか。少し残念。でも、いいや。喋れる口実ができたから、それでいい。今のうちは、それでいいんだ。嬉しくて、ニヤけてしまう。口元がだらしなく緩んで、こんな顔東峰旭には見せられないなあ。「青木さん」わっ東峰旭が呼んだっ!あたしはとっさに振り向いた。

「な、何」
「…窓ガラスで、丸見えなんだけど」

ひゅっと冷たい風があたしと東峰旭の間に吹いた。そして熱くなっていく顔。み、み、見られた。あたしのニヤけ顔、み、見られた…!

「こっれは、これは違くて…!ち、違うの、これはその、一緒に帰れるから、とかじゃなくて、その、あの…」

駄目だ、言葉が上手くでてこない。どう言い訳したらかわせるか、なんて頭の中がぐるぐる回るけど、上手く言葉が出てこなくて。少し顔が赤い東峰旭はそのまま俯いた。

「…今日、楽しみ、だな」

ぼそりと呟いて、「そろそろ教室もどるよ」と言って帰っていった。あたしはその場に座り込みたい気分だったけど、へろへろとなりながら教室に戻った。ねえ、東峰旭。どういうことなの…?

20151001


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