人は私を天才だなんだと囃し立てる。私は音楽をやっている人からしたら羨まれる『絶対音感』というものを持っている。そして少しだけ、上達する速度が早かった。だからなのか小さい頃はピアノやらヴァイオリンやらをやらされ、指には気を使えと言われ体育はボールを使う時には見学しろだの手に傷をつけるなだのうるさくてピアノはやめてしまった。ただ絶対音感を持っているというのは私にはいいことであった。曲の音がわかるから弾きたい時に弾けるし何よりみんなが褒めてくれるからだ。だから歌もうまいの?なんて聞かれて、私は必死に練習した。歌は下手くそなんだ、なんて死んでも言われたくなかったから。そうして荒んだ小学校生活が終わり中学。ヴァイオリンはなぜだか楽しくてやめれなかった。ピチカートっぽく弾くのが楽しくてよくしてたり、たまに練習があきたらウクレレみたいにして遊んでた。ヴァイオリンのコンクールとか出たらたくさん褒められて、私もたくさん練習した。そしたら、トランペットをやっている人が私に目をつけた。ヴァイオリンがとても上手いね。ねえ、トランペットやってみない?と。その人はプロのトランペット奏者らしく、わたしが一日でチューニングB♭を出したことを驚き、なんとトランペットをくれたのだ。それ以来トランペットとバイオリン、両方をしている。だから私は中2にして吹奏楽部に入った。そして、今に至る。

「実里の音は綺麗だね」
「へへ、ありがとう」

人は私のことを天才と言うが、本当に完璧な天才などこの世にはいないんだと思う。だって私はピアノはやめたけど、ヴァイオリンやトランペットはやめてない。練習を怠ったことなんて一度もないんだから。

「このあとヴァイオリン?」
「うん。だから30分はやめに帰るよ」
「じゃーさ、ここ合わせよ!」
「いいよ」

セクション練は好きだ。いろんなパートと合わせれるから。こんなリズムやメロディがあるんだって分からせてくれる。夏の高校野球があるとともに、私たち吹奏楽部もコンクールがある。去年はみんなやる気がなくてあともう少しのところで金だったのに銀だった。今年は金を狙いたい。

「失礼します」
「失礼します!」

あとは後輩に任せ、帰らせてもらった。パタパタと階段を下りてローファーにかえて外に出る。校門を出て柵にそって歩いていたら、野球部が練習しているのを見かけた。…榛名くんどこかな。立ち止まって見つけようとしたが中々見つからない。……あ、いた!柵をがっと掴んだ。気づかないかな、わたしがここにいるってこと。気づかないかな。榛名君は一生懸命練習していて、遠いながらもがんばっていることがわかった。これで気づいてほしいなんておこがましいや。頑張ってる人の邪魔はしちゃダメだよね、帰ろうと柵から手を離した瞬間、榛名君と一瞬だけ目が合った。私は手を振らず歩き出した。うん、なんか、これでいいやって思っちゃった。よし、ヴァイオリンがんばろ!

20150825

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