もうよく分かんなくて。でも普通にしゃべれてるのが嬉しくて、何故だか泣けてきて、零れた雫を人差し指ですくった。

「…何泣いてんだよ」
「うっさいなー。ほっといて」

私は譜面台を立てて楽器を出した。マウスピースを吹いてると、榛名君がジーッと見ていたのでもう一つマウスピースを出して渡した。「はい」

「…何だこれ」
「口ぶるぶるーってするの」

やってみせると、榛名君もそれをやったので少し笑った。それでマウスピースに口をつけてみて、というとかすかに音が出たので、トランペットにそのマウスピースをつけて渡した。

「…おい、これ」
「このわっかに薬指を入れてーお、中指かな?そんでなんか一つくねってなってるところに小指をかけるーそう!」

キラキラと目を輝かせながらトランペットを見つめる榛名君に私はくすりと笑って、それで今さっきしたことをするんだよ!というと、榛名君はぎこちなく吹いた。もちろんその音はぐしゃぐしゃで、下のB♭に近い音できっとチューナーを見たら凄く揺れているんだろうなって音で。でも面白くて。

「凄いでしょ。トランペット難しいんだよ」
「お前いっつもこんなん吹いてんだな」
「うん」
「ていうか、何で俺に」
「吹きたそうな顔してたから」

ニコッと笑うと榛名君は少し顔を赤くさせて9時の方向に目をそらした。「別に…」なんて言ってる。なんか可愛いなあ。返してもらってマウスピースを外して自分のマウスピースをつける。軽くパララと吹くと、「おー!」と榛名君はキラキラと目を輝かせた。

「えへへ。榛名君トランペットに興味あるの?」
「プロとかの応援、この楽器だけじゃん。どんな感じなんだろーとは思ってた」
「へえ!そりゃ嬉しいね」

興味を持ってもらえるなんて光栄だ。にひひと笑いながらチューニングB♭を出してチューニングを始める。…あ、そういえば。

「話って何?」

すっかり機嫌がよくなってしまった私が少し恥ずかしくて、つんけんとした態度で言ってしまった。榛名君は「あー…」と左上を見て、「やっぱいいわ」と言ってイスを出して私の横に座った。「何?」と聞くと「見てる」と言うから、私は恥ずかしくなって少し離れた。そしたらイスもって寄ってくるから、やめろ!なんて言ったら榛名君は笑った。…榛名君、笑ってる。私に。

「…ごめんね」

ついでた言葉は、謝罪の言葉で。榛名君はきょとんと私を見た。だって、だってさ。きっと榛名君は私の言動とか行動で無視してきたんだと思う。よくよく考えてみようと思ったら、きっとあのときのことで。私が友達だーって言ったら、ピシッて固まったんだ。

「榛名君さ、私が友達っていうのが嫌だったんでしょ」

トランペットを両手で持って、下を向いた。休憩時間はきっとあと15分。離したいことを全部言ってトランペットをちょっと吹いて教室帰ろう。榛名君は何も言わないから、私が言うことにする。

「私さ、言ったじゃん。男友達榛名君だけって。クラスの男子みんなチャラくていまいち好きになれなくて。でも榛名君は野球頑張ってて、こんな私にも話しかけてくれて、飴もくれたし…なんだか榛名君は眩しくて、それできっと私は友達になりたかったんだと思う。えーっと、友達っていうか…榛名君から話しかけてくれるような仲になりたかったんだ」

上手くいえないけど、そういうこと。やっほー!とかいって手をふる仲になりたかった。教科書とか貸してほしいし、たまに野球の話をしてほしかった、それだけなんだ。それを含めて友達って意味だったんだけど、榛名君は私が友達っていうの嫌だったんだよね。ゆっくりと顔をあげると、榛名君は顔を真っ赤にして私を見ていて、なんだか私まで顔が熱くなった。

「ちょ、ちょっと!なんか私告白してるみたいじゃん!違うから!」
「わ、かってるけどよ…」

ガシガシと髪を掻いて何か言いたげ。でもなんか恥ずかしくて聞きたくない。私はトランペットを吹くことにした。あとちょっと吹いたら片付けよう。そうしよう。顔は相変わらず熱い。風が入ってきてちょっと涼しい。

「…まあ、友達からでいいか」

トランペットを吹きながら聞こえた言葉。私はチラりと榛名君を見ると、真剣に私を見つめていた。

「ちょっと焦りすぎてたのかも。俺、柊と友達始めることにするわ」
「ほ、本当…!?」
「まあでも下心あり、で」
「え?」

よく言っている意味が分かんない。私は首を傾げると、榛名君はキッと私を見て。

「俺、お前が好きだから。今まであやふやだったけど、今確信した。そんじゃーな」

そういうなり踵を返して帰っていく榛名君。私の頬は相変わらず熱いし、榛名君は耳が真っ赤だった。

「……え?」

私のすっとぼけたような声はこの教室に響いた。そうか、そういうことだったのかと私はようやく気づいた。

20150831


戻る


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -