今私は宙ぶらりんな状況で。
榛名君が好きなのに、好きという二文字がいえないずるい女で。
言ってしまえば楽なのに、「好きだ!」って。きっと榛名君も喜んでくれる。だけど何だか言葉が出てこなくて、怖くて。
何が、怖いの?
私が、好きだと言ったら、何もかもハッピーエンドじゃない。

「せんぱーい。今日も居残りですかあ?」
「うん」
「頑張ってくださいね〜」
「ありがとう」

にこっと後輩に笑いかけ、私は練習する。折角1stの楽譜もらったのに私ができなかったら意味ない。できないフレーズが一つだけあって、そこをひたすら練習する。私が引っ張らないと、頑張らないと。
そしていつもの時刻。私は片付けて校門まで走る。そこには榛名君が立っていて。

「榛名くっ…」

あれ、他にも人がいる。
誰?
…あ。
あの人、マネージャーさんだ。
可愛くて胸が大きい…。
ざわざわと胸が痛んだ。
…ねえ、榛名君はなぜそんなにも笑顔をその人に向けてるの?
好きなのは、私でしょ?
違うの?

「よーし、これからもがんばりなさい!」
「あ、はい!」

あ、触れないで。
榛名君の肩に触れないでよ…っ!
ざりっと下にあった石を踏んでしまった。それで二人がこっちを向く。あ、やばい、目が合った、あの先輩と。

「柊。遅かったな」
「おっ何々?二人は付き合ってる…とか?」

楽しそうに笑う先輩。でも私は全然楽しくない。距離、少し近いんじゃないの。ちょっと離れたほうがいいんじゃないの。そうやって胸とか押し当てて後輩からかわないでよ、ばかなんじゃない。

「違いますよ。友達です」

何で、何で榛名君が言うの?
普通私が言うんでしょ?
何で否定するの?
榛名君は否定したくないでしょ?何で笑いながら言えるの?やっぱり、私のことは好きじゃなかったの?一目惚れじゃなかったの?ねえ、何でそんなにその人と喋るの楽しそうなの?
何だかもやもやして、私はきっと二人をにらみつけた。

「…わ、わたしはっ…」

あれ、私何言おうとしてるんだろう。
うわ、榛名君に変な人って思われる。
じわりと涙がこみ上げてきて、咄嗟に下を向いた。

「…帰る!」

ばっと走り出した。
ばか、本当バカ。何でここで走り出すんだ。ちょっとムカついただけじゃん。榛名君は関係…いや、榛名君も榛名君でむかつく。何なんだ、あの二人。私は頑張ってるのに…!

「おい!」

ぱしっと掴まれた腕。振り返ると、榛名君が肩で息をしていて涙がぼろりと零れた。榛名君がはあ?!という顔で私を見ている。それもそうか、ごめんね榛名君、こんなめんどくさい女で。こんなめんどくさい女好きになって榛名君も大変だ。
でも、でもさ。

「…榛名君は、私が好きなんでしょう…?」
「……!」
「なら、あの人にそんなにニコニコしないでよっ…あんなに近くにいないで…簡単に付き合ってないって否定しないで…」

言ってること全部私のわがままだ。きっと榛名君も呆れてるだろう、って思いながらゆっくりと見上げると、榛名君はぽかん、と効果音がつくかのように私をぼーっと見ていて。

「…それってヤキモチ?」

今の私、の状況が、その4文字で収まるぐらいなら、きっとそうなんだろう。そうだ、私ヤキモチやいてる。あんなにデレデレしてたら、こっちだってイライラしちゃうじゃん。

20150919

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