「ヴァイオリンの練習してないんでしょ」
先生にそう言われ、こくりと頷いた。今まで両立できてきたけど、やっぱりもうダメなのかなあ。トランペットに集中したいような、ヴァイオリンもしたいような。
「今日のレッスンは終わり」
そう言って先生は部屋から出て行った。私は黙って片付け始める。両立させようとしても、どちらかが傾いてしまって、結局うまくは行かないんだ。もう、終わりなのかな、ヴァイオリン。習うのをやめて、趣味として始めようかな。いやでもそんなことしたら…。
「元気ねーな」
榛名くんはぽつりと呟いた。え?と顔をあげたけど目線は合わず。ぎゅっと拳を握りしめた。
「私、ヴァイオリン習うのやめようかなって」
「へえ」
「習うのをやめるだけで、ヴァイオリンはまだ続けるつもりで」
「そうか」
「でもどうしたらいいのかなって」
「何が?」
「だから、ヴァイオリン」
「もう結果は出てんじゃん。お前は俺に何を言わそうとしてんの?」
キツイ一言。そうだ、私は無意識に言ってほしいことを誘導させようとしていた。だけど榛名くんは、それを遮った。
「お前へこんだらすぐ人に頼ろうとしてるよな。別に悪いわけじゃねえけど」
「…ごめん、つい」
「言いけど、そんなんだったら一人で決めれなくなんぞ」
「…うん」
榛名君に怒られた。辛くて、なんだかなにもかもほっておきたくなる。でもやっぱりヴァイオリンがしたくて、もっと上手くなりたいんだ。
「榛名君はプロになるんだよね」
「まあ、夢ではあるな」
「私も、夢あるんだ」
「へえ、音楽系?」
「うん、オーケストラ団員」
ぽろっと口に出した言葉は、榛名くんにはイマイチ伝わらなかったのか、へえー、と微妙な返しをされた。
その夢は、ずっと、ずっと温めてきた、誰にも言わなかった夢。
「オーケストラ団員になってヴァイオリンを弾きたいの。でも今のままじゃそんなの無理…」
私は天才じゃないから。
人一倍努力して認められるんだ。
そんなのトランペットやめればいいじゃないかって言われるようだけど、そんな簡単にやめれたらこんな悩んでない。両立って大変だ。
「なりたいならなりゃいい」
「そんな簡単に…」
「だから練習するんだろ」
榛名くんは私の頭をわしゃわしゃと撫でた。
「死ぬほど練習して、そんでうまくいくんだよ。今まで頑張ってただろ」
「…できるかな」
「できるだろ、お前なら」
にかっと榛名君が笑った。
そうなのかな、私ならできるかな。
「…私頑張る」
榛名君はいつも答えを導き出してくれる。その答えはいつも私がやりたいという意見を尊重してのもので。これが正解かと言われると私にはわからないけど、結局は榛名くんの答えに救われてる。あ、今さっき注意されたのにな。また言われちゃった、私が欲しい言葉。
20150919
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