ヴァイオリンをなぜ続けようと思ったのか、今ではよくわかる。
楽しかったと一言で言えるけど、それだけじゃない。綺麗な音だった。上品な音を出した。ただその音色が好きだった。好きな男の子がヴァイオリンを習っていたから、それだけ。
結局男の子はすぐやめて、好きな子も他にいるって知った時は本当に苦しかった。投げ出したかったけど、私が鳴らすヴァイオリンの音色は、すごく心に響いた。有名な作曲家の曲を弾くよりも、あの男の子がずっと練習していた曲を弾く方が何倍も楽しかった。いつだってこんな風に単純なんだ、好きなものって。だからきっと榛名君が好きだというのも、理屈では言えないんだ。榛名君が私のことを一目惚れだというように。きっかけを与えたのは一つのトランペットで、私がなぜか滑り台の上で吹いていたというだけで、好きになったのは私が自分で行動した結果だ。

だから私は、榛名君に会ったらもうトキメキが隠せそうにない。

「おはよう榛名君」
「お、おっす…」
「今日も良い天気だね!」

私が何時ものように元気に返すと、そうだなって軽く笑って。あ、私この笑った顔すごく好きだ。

「なんか機嫌いいな」

昨日あんなことがあったのに、って榛名くんは思っているだろうけど。悪いけど榛名くんの考えは全然違うよ。あんなこと言われて嬉しくないはずがないじゃん。だから私はこんなにも表情筋がゆるゆるなんですよ。

「機嫌がいいので飴を贈呈します!」
「お前いっつも飴もってんな」

そういいながらも榛名くんは手を出してくれて。差し出した掌に飴を置いたけど、なんだか名残惜しくて少しだけ触れた。それに気づいた榛名君が「え」と言葉を漏らした。

「…じゃあね」

榛名君て凄いな。
どうしたらあんな風に気持ちが伝えられるんだろう。私なんて到底無理。言葉にしようものなら顔から火が出るぐらいの勢いなんだもん。前途多難かなあ。いや、頑張ればいけるはず、だよね。

20150919

戻る


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -