それから私は度々休憩したり、あまり無理をしないような練習を重ねていった。
そろそろ頃合か、と思い思い切って吹いたら、ハイトーンが出た。
私はすぐ様ソロの練習に取り掛かって、うん、もう大丈夫だろう、と思って先輩のところに直談判に言った。

「お願いします…!」
「…ここで吹いてみて」

私はすぐ様トランペットで吹いて見せた。よかった、音出る。これで…。
でも先輩はあまりいい顔はしなかった。

「また高音出せれなくなったりとかあるかも」
「絶対吹ききります!」
「…あんた体力ないからな」

う、痛いところを疲れた。あんまり持続するほうではない私は、去年の定演ではヒーヒー言いながら吹いていた。

「…まあ、まだ保留。練習に行って」
「はい!」

よかった、ダメって言われなかった…。私はすぐさま練習に取り掛かった。早く、早く榛名君に言いたい!
私は練習を今日も遅くまでして、そろそろかというところで練習を終わり校門を出た。あ、やっぱり榛名君いる!

「榛名君!」
「…柊」

駆け寄ると、榛名君はふにゃりと笑った。私もつられて笑う、私は榛名君の隣まで走って、歩き始めた。

「あのね、上手くいきそう。まだ油断は禁物だけどね」
「よかったじゃねーか」
「うん!頑張る。私野球応援楽しみたいから!」
「…あのさ、お前去年出てなかった、よな?」

ぴくりと反応するからだ。あんまり聞かれたくないこと、あんまり言われたくないこと。去年のことを思い出しては頭痛が走る。だって、私何もできなかったから。

「…私、去年酷い腱鞘炎かかっちゃって、野球応援はおろかコンクールさえも出れなかったから」

そう言うと榛名君は黙った。そりゃそうか、急に暗い話して明るく振舞うはずないもんね。気にしちゃったかな、何か変な風に言っちゃった。

「榛名君の言ったとおりだよね!いっつも練習しすぎでこんなことになって、結局何もわかってないっていうか…」

言っててなんかダメだって思った。涙がじわりとこみあげてきて。私本当ばかだな、また同じこと繰り返して。榛名君ははー、とため息をついた。そりゃそうだよね、こんな私呆れるに決まってる。だけど榛名君の言葉は違って。

「お前、本当頑張ってんだな」

私をねぎらう言葉で。

「すげーと思う。それになってもやめないでがんばってんのもすげえと思う」
「け、腱鞘炎は治らないものじゃないし…」
「それでもやる気すげー無くすだろ」
「そりゃ、悔しくて、毎日泣いてたよ…」
「お前はすげーんだよ」

私、榛名君の言葉に救われてばっかりだ。
いつも私がほしい言葉を言ってくれる。がんばったな、とかすげえ、とかすごく嬉しくて、私がみんなに言ってほしい言葉で、誰も言ってくれなかった言葉。だけど榛名君は言ってくれた、こんな私に、そんな言葉を。

「榛名君のばあぁああか…!」

ぼろぼろ涙を零した。
また、泣いちゃったよ。
榛名君はまたおどおどして、ごめんね。また困らせちゃった。

「私、頑張るから…だから榛名君も頑張ろうね…!」

榛名君に拳を向ける。「おう」と言ってこつんと私の拳に合わせた。ごつごつした手だなあ、きっと頑張ってるんだ。榛名君は私の頭を優しく撫でた。ほんと、助けられてばっかりだなあ。

20150914


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