榛名君に告白?というものをされてはや二日。いまだにあの時のことが頭から離れず困っています。

「せんぱーい。とまってますよ?」
「あ、ああごめん!」

金管の皆で野球応援の合わせをしてたんだった。どうしよう、アンブシュアが崩れてhighB♭が出ない…。何度も何度も挑戦するが音がでてもプシュッとなって崩れていく。

「……」

先輩がそれを見ていたことを私は知らずにいた。

*

「ああ〜なんでだー!!」

くそっと言いながら楽譜に書き込む。何で、何で何で。音がでないんだよー!!音あわせの時も出なかったし、このままだったら野球応援の時もでないんじゃあ…。あの大きい球場でソロを任されたのに。綺麗に響いたら良いだろうな、って考えてたのに。このままだったら…。

「ダメだ、ダメだダメだ!」

頑張らなきゃ、頑張りが足りないんだ。最近バイオリンのレッスンを休んでまで練習してるのに、このままだったら何も吹けずに終わってしまう。去年みたいになりたくない…から、頑張らないと。今までしてきた努力が水の泡になっちゃう。「外練行って来ます!」と言ってタオルと譜面台と楽譜を持っていく。水筒も持っていこう。久々の渡り廊下。野球部が一生懸命練習してて、榛名君が見えた。榛名君は頑張ってるなあ…。私に告白?してきたくせに。好きだって言ったくせに…。私が戸惑ってちゃだめじゃない。パチンと頬を叩いてトランペットを吹く。ああ、外練っていいなあ。音がどこまでも飛んでいって、中々きれいには響かないけど、皆に聞いてもらえるって。もっと届かないかな、榛名君まで――
って、榛名君のことは今は忘れなきゃ。練習練習。

「ふー」

口が疲れてたのかな、きっとそうだよ。頬を柔らかくして、少し休憩する。…今の私にはこれが精一杯。楽器を頑張りたい。好きとか深く考えちゃダメだ。とにかくソロの練習しないと…。

「シラシー、ラシドレドー…」

何度も吹いたはずなのに、どこかが躓いて音が出ない。いつもはらくらくでるのに。何でだろう…。唇を触っても何かわかるはずがなく、どうしたらいいのかと私はひとり落ちた。


「お疲れ様でーす」

後輩が私に言って帰っていく。私はもうちょっと残って練習しようかな…。先生に許可をとりにいこうとしたら先輩に引き止められた。

「話があるの」
「…?はい」

先輩の顔は険しく、今から何を言うか分からないけど無償にドキドキして仕方がなかった。

「ソロのことだけど。あんたじゃなくて違う子にやらせようと思ってる」
「……え」
「今のアンタ、ソロはおろか他の曲も吹けてないじゃない。もう野球応援も始まるのにそんなんじゃ任せられない」
「……」
「まあ、それだけ。それじゃね」
「お、つかれさまです…」

先輩が帰る足音を、ずーっと聞いていた。そして私はフラフラと先生のほうに行って練習の許可をもらって練習した。ただただ、無心で。いつの間にか誰もいなくなって、かなり時間が立っていた。私はトランペットをしまい、鍵を返して学校を出る。真っ暗だな…はあ。こんな時間まで練習しても、意味が無くなったの、に。あれ、目の前に誰かいる…背高いな、顔が良く見えない…。目の前の人は私の存在に気づいたのか後ろを振り向いた。

「…柊?」
「…は、るなくん」

榛名君は私を見て少しだけ照れながら頬を掻いた。「一緒に帰る?」という問いかけに、私は何だか下からこみ上げてくるものがあって、ピタりと立ち止まった。いつになっても答えが帰ってこないのに痺れを切らしたのか、榛名君は私のほうへ歩み寄った。ソレを見て私もどんどん引き返せなくなっていくこの状況。

「おい柊っ…」
「…うわあああああん!!」

大粒の雫が私の目から零れ、私は顔を上に向けて叫ぶように泣き出した。榛名君はびっくりして「とりあえず出よう」と私の腕を掴んで歩き出した。私の泣き声は中々止まず、うるさいだろうに、文句一つ歩いてくれてる榛名君の優しさに、私は涙が止まらなかった。

20150906

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