なんで、なんで。あたしはふつふつと湧き上がる感情に苛立って仕方なかった。

「こーたろが…光太郎が手ぇ出してくんないよ〜っ」

涙目になりながら赤葦君にそう言うと、はあ、とため息をついた。教室の中、ざわつく中であたし達の会話を聞いてる人はいない。

「俺にそういう話しないでくれる?」
「だって…他に言う人いないし…」
「…はあ」

赤葦君は良き相談相手だ。光太郎のことよくわかってるし、喧嘩をしたら必ず大丈夫?何かあった?って聞いてくれる。まあ、あっちの態度があからさまだからだけど。
そういうことで、今あたしは窮地に立っている。キスのその先もしたいと言ったあたしの彼氏が、手を出してくれないのだ。以前なぜ手を出さないのかと怒りながら聞いたら、またあの妊娠騒動になったりしたら嫌だから、とのことで。

「…別に妊娠してもいいのに」
「えっ」

あたしの突然の発言に赤葦君はガタッと少しのけぞった。

「あたし光太郎の赤ちゃんほしい…!」

だって、絶対可愛いもん、こーたろの赤ちゃん。ていうか早くこーたと結婚したい。早く妊娠して幸せな家庭生活を送りたい。一度暴走した脳内は最早赤葦君には止められるはずはなく、「すとっぷ、すとっぷ」と慌てている、があたしは止まらず。

「じゃあ寝ている間でも…」
「それ一番ダメなやつだから」
「じゃああたしが無理やり押し倒して…」
「何物騒な話してんだ」

ぽん、とあたしの頭を軽く叩いたのはこの話の中心人物でもあった木兎光太郎で、あたしの彼氏で。

「お前赤葦押し倒すのかよ」
「はあ?なわけないじゃない」
「そうですやめてください。そんなの彼女に見られたら殺されます」

赤葦君、彼女いたんだ。ていうかそれより光太郎がそこしか聞いていなかったという事実が許せない。

「じゃあなんなんだ?」
「あんたの話してたの」
「はあ?俺の話?」

何のことか分かってない様子に、あたしは赤葦君のほうに向けていた体を光太郎のほうに向けた。光太郎のごつごつした手に自分の指を絡ませ、ゆっくりと動かす。

「光太郎が手、出してくれないから赤葦君に相談してたの」
「はあ?お前そんな相談赤葦にすんなよ!」

吃驚したように焦りながらいう光太郎。でもあたしはしょんぼりとしながら手をぶらんこのように動かした。

「…あたしのこと大事に思ってくれてるのは嬉しいけど…愛されてるの分かるけど…なんか不安で」

今まで体を繋がらせて愛を感じていたから、普通のお付き合いの仕方なんて分かりっこない。それに高校生って普通にそういうことするもんだと思ってたから、基準がわかんなくなった。

「…あのよ」
「…何」
「俺ここ最近毎日お前に会いに来てるんだけど」
「…赤葦君のついででしょ」
「アホか。彼女をついでにするバカがどこにいんだよ」

こつん、とあたしの頭を叩いて、きゅっとあたしの手を握りしめた。光太郎の大きくてごつごつした手、大好き。

「電話も毎日して、たまに繋がったまま寝てて朝気づいて…それでも不安なわけ」
「…そ、それは」

あたしわがままだったかな。
でも、それぐらいしか愛され方がわかんないから、光太郎の愛し方とかわかんないんだもん。それでも毎日来てくれて、電話もして、それで十分なんだ、それが普通の付き合いなのかな。

「あたしは、もっとこーたにくっついてたいの…」

簡単な言い方をすると、そういうことなんだと思う。妊娠願望もあるけど、それよりも、ってことなのかな。手出してくれないとか言って赤葦君に相談してるのも、こーたろはあたしから距離をとってるってことに近いから。

「はー、もうお前さ」

光太郎はこつん、とあたしのおでこに自分のおでこをくっつけた。「わがまま」と囁いてあたしから離れた。熱くなったおでこを抑えながら光太郎を見上げると、にこっと笑って。

「わりいけどお前が高校卒業するまで絶対手出さねえって決めてんだ。でもくっつくとかだったら、いつでも良いかんな!」

そう言ってあたしの髪をわしゃわしゃと撫でて、「お!時間ねえから帰るわ!」と言って颯爽と帰って行った。

「…ばかやろう」

今度はあたしが会いに行こうかな。いつもいつも来てくれてるし。光太郎が疲れてたらそれを癒せるようになりたい。へこんでたら、ちょっと面倒くさいけどすぐに元のこーたろに戻せるようになりたい。やることは、たくさんあって、全部できたらいいな。それまではこのわがまま直さないと、愛想つかされちゃうかもしれないから。

「終わった?」
「あ、赤葦君。どこ行ってたの?」
「彼女んとこ」

二人の話をずっと聞くのも野暮だと思って、丁度彼女に呼ばれたからと赤葦君は言った。
とりあえず、この愛されたがり、重いぐらいぶつけるのはやめようと思った。

20151004




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