好き。そう口に出してはみたものの、田島に言うことができない。田島が好きで仕方ないのに、いざいうとなったら、なんだか恥ずかしいものなんだな。
でも、ここまで上手くいったのもみんなのおかげなのかもしれない。変な勘違いしてたみたいだけど…。でも、とりあえず。

「田島かっこよすぎるでしょ…っ」

夏権の第一試合、西浦は桐青高校ってところと戦って勝ったのだ。あたしはもちろん何がなんでもみようと学校を休んで来た。まあそのあと行ったけど。ばっちりビデオで田島を写している。

「ふふ、ふふふ、ふふ」

田島かっこいい…打ててない田島もよかったけどやっぱり打ててよっしゃー!ってガッツポーズしてる田島が一番かっこいい…可愛い!もう可愛くて仕方ない。とりあえず可愛すぎてつい勢いあまって田島にメールをしてしまった。「お疲れ様!」と。田島は「勝ったぞ!」って来て、もうなんか、きゃああ!ってなった。結果をしっているけど、田島からいってくれたなんて、もう、嬉しすぎて。興奮するしかないでしょ。

「このメール保存…」

一生とっとく。そんでたまにみてニヤける。田島、好き、好き。ベッドに寝転がってゴロゴロしていると、携帯が鳴った。で、でんわ…?あけるとそこには「田島悠一郎」とかいてあって、あたしは飛び跳ねた。

「もっもし、もし…」

急いでコールボタンを押して耳に当てながら話すと、「あ、名前ー?」と間延びした田島の声が聞こえた。田島はあれからあたしのこと名前で呼ぶようになった。名前を呼ばれるためにきゅんって心臓が跳ねて仕方ないんだ。

「ど、どしたの」

ドキドキして、上手く言葉が発せない。だって、田島からの電話なんて、嬉しくて、本当走り出したいぐらい。田島は「んー」と少し悩んだような声をだして、

『ま、名前の声が聞きたかったからかな!』

ははって笑う田島に、あたしは口元がゆるんで、ゆるんでしかたなかった。あたしの顔いま物凄く気持ち悪い。ニヤニヤして仕方ない。田島はドストレートに言うから、嬉しくてたまらないんだ。

「そっ、そ…そう」

おう!と元気な声。言わなきゃ、あたしも、田島の声聞きたかったって。すー、はあー、と深呼吸をして、ぐっと携帯を握った。

「たったじまっ」
『ん?どうした?』
「あたっあたしも…田島の声、ききたかった…かも…」

最後のほうはもう蚊の鳴く様な声。聞こえてるかさえも分からない。でも通じろ、通じろってとにかく祈った。田島にも気づいてほしい、あたしの気持ち。だけど田島の返事は返ってこなくて、えってなった。お前が?ってなってるのかな。それとも全く聞こえなかったのかな…。焦りながら次の言葉を発しようとしたら。

『…やっべー…自分で言うのと人に言われるのって全然違うな…』

掠れたように呟く田島に、あたしはとりあえず聞こえていたんだとホッとして、それから。何だか恥ずかしくなって顔が熱くなった。

「うん…」
『めちゃくちゃ嬉しかった!』
「そ、う…」
『へへ、電話してよかった』

きゅんってまた。もう今日は田島にキュンキュンしまくりだ。そんなことはいえるのに、あたしがああいうこと言ったら照れるなんて、もうあたしをキュン死にさせるつもりなの?田島、大好き。

「次の試合、見に行くね」
『お!やった!』
「田島のかっこいいところ、見せてよね」
『おう!たっくさん見せてやるよ!』

頼もしい、なあ。田島かっこいいんだろうな。野球やってる田島すっごい輝いてて、あんな輝いてる人があたしの彼氏なんだって考えたら、本当に嬉しくてニヤけが止まんなかった。だけど、田島はいつもあたしに嬉しいことばっかりしてくれる。電話とか、声が聞きたかったとか、…名前呼んでくれる。まだ付き合ってなかったころ、名前で呼べよって言われたことがある。もしかして、田島も名前で呼んでほしいのかな。そうだとしたら、あたしは頑張んなきゃ。

『ふわぁああ…』
「(欠伸かわいい…)眠たい?じゃあそろそろ切ろっか」
『えー、もうちょい話してーな』
「…明日も練習あるんでしょ?だから、早く寝ないと」
『…んー…わかったー』
「…うん、じゃあおやすみ…ゆっ、悠一郎っ…」
『え』

ぷつ、と電話を切って、ばたんとベッドに倒れこんだ。

(言ってしまった言ってしまった!)

じたばたとベッドの中で悶え、顔を覆う。だって、言ってしまった。悠一郎…ふふ、ふふふ。言っちゃった。きゃー!言っちゃったんだ!ごろんごろんとしていると、「名前うるさい!」と母さんから怒られたからとりあえずやめた。ていうか言い逃げしちゃった…。明日も顔合わせるのに、恥ずかしくて顔見れないかも…。そ、そんなの駄目だ!どうしよう!とわたわたしていると、携帯がチカチカと光った。『新着メールが1件着ています』とあったので、パカりとあけると、悠一郎から着ていた。

『名前呼び、嬉しかった!おやすみ!』

それだけ、で。
でも、それなのにあたしはぶわわって花が飛んだように嬉しくなって。ニヤニヤと口元がだらしなく緩んだ。ふふふ、ふふふ、と気持ち悪い笑みが零れてそのメールを保存した。


20151003




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