「ほんと名前ちゃんってさ、可愛いんだよね〜。好きだよって言ったら顔赤くしてあたしもって…ほんと可愛すぎる!ちょっと会いに行ってこようかな!」
「うぜぇ及川」
頬杖つきながら聞く岩泉は早くこれが終わらないかと思っていた。及川の話は非常に長い。一回話し始めると本当に止まらないのだ。そしていま、まだ序盤のほうである。
「そうそうこの前の試合でさ、捻挫しちゃったじゃん?名前ちゃん本気で心配してくれて…あたしに何かできることがあったら何でも言って、ってほんと可愛すぎるでしょ〜!尽くしてくれる彼女大好きなんだよね、本当好きすぎる。結婚したい」
「じゃあすりゃぁいいんじゃねーの」
いい加減うざく感じた(元からうざいが更に)ので話もあまり聞いていない。しかし今日はよく喋る、うざいぐらいに。こんなところをアイツが見かけたらアイツはどんな反応をするんだろう、と見えないようにほくそ笑んだ。及川はまだペラペラと喋っている。いい加減イライラしてきたので、「俺ジュース買ってくるわ」とまだ話の途中だよ?と言う及川を岩泉は無視をした。
「あっ岩泉」
軽く手を振りこっちに走ってくる女子に岩泉はまたため息をついた。彼女はまさしく、及川徹の彼女なのだ。
「ちょっと、出会い頭にため息って何なの?」
「いや…お前もあんなんが好きなんだなって思っただけだ」
「はっ……徹の話?ちょ、何を言い出すのよ」
途端に照れ出す彼女にまたため息をつきそうになった。彼氏の前では本当にツンとしているのに彼氏がいなかったらこの有様だ。だらしなくなった口元を慌てて隠し、ジュース買わないの?と聞いてきた。
「何買うかな」
「決めずに来たの」
「ああ」
とりあえずあいつの惚気マシンガントークから逃げたくてな、と心の中で呟いた。
「(これ…)」
「あ、それ徹が好きなやつ」
「(…じゃあこれに)」
「あ、それも徹が美味しいって言ってた」
「さっきから徹が徹がうっせぇ!」
どんだけ好きなんだよ、このクソバカップルが!と岩泉が吐き捨てると、彼女はみるみるうちに顔を赤くして、「ちが…」と弁解を始めようとした。岩泉は漸く決め、ピッとボタンを押した。
「いっ岩泉こそ、どうなのよ」
「何が」
「好きな子とか…」
「あー」
少し考えたが、イマイチパッとする人がいない。「いねえ」とだけ言うと、彼女はきゅっと自分の袖をつかんで、「できるといいね」とだけ言って帰ろうとした。
「お前話題そらしたろ」
ギョッとしながら岩泉をひん剥くようにみる彼女に岩泉は笑った。
「及川、お前の惚気しか言ってこねぇ。何とかしてくれ」
彼女は目を大きく見開き、「あいつは…」と呆れたように言って、そのあとにひっと笑った。
「これから徹のとこ行くの?」
「おう」
「じゃああたしも行く」
徹に会いに、と彼女は少し頬を染めながら呟く。岩泉は違うところにでも行くかな、と考えながらプルタブを捻った。
20151007