Bitter Love | ナノ
彼女は自分の家まで送らせようとはしない。ここから真っ直ぐ言ったら自分の家だから、とかあと少しでつくからいいよって。絶対、何かあるんだ。放っておけない。俺は待ち合わせ場所の時計にもたれた。来るかな…。手に息をかけながら待っていると、彼女はやってきた。

「……」

俯いて、表情は見えない。俺は「行こうか」と言って、歩き出した。彼女は何も言わない。俺は「今日はちゃんと家まで送るよ」とニコりと笑って笑顔で言うと、

「ダメっ絶対、絶対ダメっ…!」

彼女は俺のブレザーの裾を掴んで、歩くのをとめた。こんな大きい声出したの、初めて聞いた。俺は吃驚して声が出なかった。

「…二口君はいい人。あの時助けてくれなかったら私最後までやられてた。怖くて、声が出なくて、もういいやっておもってたのを助けてくれたのは二口君だから。だから…これ以上私に関わろうとしないで」

そうやって、俺をわざと突き放すような言葉を使って。何を隠してるんだろうって気になるじゃないか。彼女は必死に俺を見つめた。ああ、口元の傷が絆創膏からはみ出して痛そうだ。だめなの?俺じゃあ君を守るナイトにはなれない?揺れる瞳に俺の情けなさそうな顔が映っていた。

「…帰ろっか」

彼女の手は、するすると下に落ちて、俺の手に触れた。彼女の手はじわじわと熱を帯びていて、そのままきゅっと俺の指に絡めた。俺は何も言わなかった。彼女も何も言わなかった。ただ、手を繋ぐ力だけは段々強くなっていった。

「…ねえ、もしここでさ、俺が佐々木のことが好きだっていったら、佐々木はどうする?」

俺は一つの賭けに出た。ビク、と彼女の肩が震える。ぷるぷると俺の手を繋ぐ手でさえも。マフラーに顔をうずめながら、また言うんだ。

「佐々木が何か大変な目にあってるんじゃないかって、心配になるんだよ。足だって引きずってるし、口元にも傷はある」

おれってそうとうおせっかい野郎だよな。でもなんだか、本当に嫌な予感がするんだ。守れることなら守りたい、だって、俺たちはあの時会ってしまったじゃないか。今更他人になんて、戻れないだろ。

「ねぇ、教えてくれないの?」

まつげが震えて、手から熱が段々となくなっていく。離そうとしているのか、俺は逃がさまいと強く握った。急に立ち止まる彼女。ほろりほろりと涙を流して、俺を見た。俺は吃驚して、彼女が手を離すのを阻止できずただただ彼女が踵を返して走っていくのを俺は見るだけだった。だけど、俺は走った。だってここでお別れしたら、一生会えない気がするんだもん。運動部の脚力なめんなよ、と十字路を曲がったところまで来たら…

「おっと、危ないじゃないか」

おっさんにぶつかりそうになった。すいませんと頭を下げてまた走ろうとしたら、見失ってしまった。くそっ。あとちょっとなのに。携帯を開いてLINEを送った。『もし何かあって助けてほしかったら俺に言え!』と。それに既読はつくかわからない。ブロックされてるかもしれない。…ん?

「さっきのおっさん、どっかでみたことあんな…」

どこでみたっけ、って頭を掻いたけど思い出せなかった。とりあえず今日はそのまま帰ろう。悔しいけど。家に帰って、誰かにまた傷を負わされてないかなって、心配になった。帰ってまた携帯を開いてLINEを見たけど、既読はついてなかった。風呂にあがってまた見ても、やはりついてはいなかった。


20150823



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