Bitter Love | ナノ
部活帰りに、俺は見てはいけないものを見てしまった。
あまり人気のない公園。俺の帰り道でもある。そしてなぜかチラりと見てしまったのだ。

「(野外ですんなよ)」

いくら草で少し隠れてるからって、反対方向だったらみえねえけど、俺の方向からしたら丸見えなんだよ。
所謂、アレで。男女がするもので。俺はハアとため息をついて、目をそらした。…だが、なんとなくだが女のほうを見たとき、死んだような目をしていて、何かあるんじゃないかと思った。
でも、フツウ嫌なら抵抗するよなあ…。いやでも、抵抗できねえのか、な。怖くて。
俺は違ったらすぐ逃げよう、ってことで、鎌かけてみた。

「おーーーい!早く来てくれーーー!!」

男はビクッと肩を震わせ、キョロキョロとあたりを見渡していた。…ビンゴ?俺は更に声を荒げた。「早くーー!!」男はカチャカチャとベルトを締めて立ち上がり、走り去った。俺はなぜだか捕まえようとしなかった。それで怪我したら、バレーができなくなる…と思ってしまったからだ。

「…大丈夫っすか?」

俺は女に駆け寄った。女は放心しているのかピクりとも動かない。上の下着が露になった格好は、違う意味でドキッとしてしまった。太ももらへんかもりあがつていて、黒のタイツを脱がされたのかと瞬時に悟った。初めて見た、酷い…。「…服着ましょう」俺はそう言ってパッと後ろを向いた。彼女は尚も動かない。…ビクビク震えているのかと思ったのに。

「風邪引きますよ」
「……あ、」
「服、着てください」

自分でもこんなに優しい声が出るのか、というぐらいの声が出た。いつもは生意気だの性格が悪いだの言われる俺にもこんな一面があるだなんて、ちょっと笑えるな、なんて不謹慎ながらも笑みが出た。それを彼女は見ていたようで、「…笑ってる?」と聞かれた。

「あ、いや。貴方のことじゃないです。すいません、不謹慎でした」
「……いや」

漸く彼女はブラジャーのホックを留め始めた。俺はパッとまた後ろを向いた。ドキドキ、心音が。俺はギュッとエナメルバッグの紐を握った。無言の空気に堪えられず、「あ、の」と俺は話しかけた。「何?」とか細い声が。

「家まで送ります…」

言ったあと、少し後悔した。この場合早く警察に行ったほうがいい?それとも、今の今で、男は信じられないか?なんて悶々と考えていたら「…いい、の?」と少しだけ嬉しそうな声が聞こえた。

「はい!でも、やっぱり無理だって思ったら、全然言っても大丈夫なんで…」
「ううん、嬉しい。全部上来たよ。こっち向いて大丈夫」

彼女にそう言われ、俺はくるりと体を向けた。その制服。俺の学校から近いじゃないか。…しかも、女子高だったかな?女子のレベルが高いってクラスの男子が言ってた気がする。暗くてよく見えなかったけど、可愛い。ぱっちり二重にくるりとあがったまつげ、綺麗な鼻筋、透き通った肌、血色のいい唇。彼女は間違いなく、美少女であった。

「…立てない」
「(腰が抜けて立てないのか…?)俺おぶさりましょうか。ちょっとまってください」

俺はエナメルバッグを正面に持っていき、くるりと踵を返して体を下ろし膝を立てて腕を後ろに向けた。「どうぞ」そういうと彼女はゆっくりと、俺の肩に手を、そして足を。俺は彼女の足を持ってスクッと立ち上がった。吃驚するほど軽い。肩を持つ彼女の手も、弱い。そして、シャンプーのいい香りがした。

「…あ、ごめんなさい、敬語使わなくて…」
「え、や、全然大丈夫っす」
「私すぐそこの高校の…2年生で…」
「あ、俺も2年。じゃあ敬語やめよっか」
「うん…。あの、さっきはありがとう…」
「いやいや。あ、警察今から行く?」
「い、いい…。言ったら、何された?とか聞かれて事細かに教えなきゃいけないって」
「そうなんだ。詳しいね」

段々饒舌になって気がする。とりあえず公園を抜けた。彼女の手が、強く俺の肩を握る。

「私のクラスの子も…今さっきのことあって、注意されてたんだけど…」

俺は言葉のかけようがなかった。「そうか」一言だけ言って、真っ直ぐ歩き出した。「家、どこ?」そう聞くと、「林町…」と呟いた。俺んとこの地区と近い。「わかった」と言って足早に歩き始めた。こんなとこ、ずっといたくないよな。そう思って。そしてふと思った。

「明日もここ通んの?」
「うん」
「いや、危ないっしょ」
「うん」
「うん、て…」

俺は髪を掻きたい衝動に駆られながら、はあ、とため息をついた。

「俺でよければ、送り迎えするよ」
「…え?」
「あ、でも俺いっつもこの時間帯まで部活してるし、朝も早いんだよな…」
「わ、たしも部活入ってます…この時間帯までやってるから、その、朝も早いし」
「まじ?朝練何時から行ってる?」

その時間におれは吃驚した。俺とほぼかわんねえ時間。…それなら。

「じゃ、待ち合わせでもしよ。ケー番教えてよ。LINEする」
「あ、うん…。分かった」

こうして、俺と彼女の出会いは幕を閉じた。


20150819

「林町」は実際にはありません。あしからず。





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