Bitter Love | ナノ
あれから、家族で話をするといって早三日。離婚が決まったらしく、今後一切私たちに近づくなと念を押していったらしい。それに対してあの男は反論したらしいが、虐待していたことを法廷で言ったらどうする?と脅したらしく渋々承諾したらしい。
俺の隣にいる佐々木は安心したような顔をしていた。あの父親は、俺と佐々木が一緒に行ったり帰ったりするのを目撃して、佐々木に問い詰めようとしたが、佐々木は言おうとせず殴られたり蹴られたり、物を投げられたりしたらしい。それに俺の危険を感じた佐々木は俺から離れようとした、と。そして何であの二人が結婚したかまでを佐々木の母親に聞かされた。何でも母親は、旦那が早くに病気で亡くなり落ち込んでいるのをあの男に慰められ、ノリで結婚してしまったらしい。だから子供も作ってないし、あまり好きになれなかったのもあってか、つい娘のほうに当たってしまい、手をだしていくようになったのだ、と俺に詳しく話してくれた。何で俺にこんなに詳しく?と佐々木の母に聞いたら「あの子が初めて男の子を家につれてきたんだから、きっと素敵な男なんだろうなって、つい口が滑っちゃった」と笑った。目と鼻が佐々木とそっくりで、やはり美人な人だった。

「でも、本当にいいの?二口君は何もいらないって。その気になれば慰謝料だって」
「いいよ。そういうのめんどくさそうだし、俺バレー部だから体鍛えてんの。もういたくないから」

今日は体育館の点検だかなんだかで部活は休みになって、今度は俺が彼女を待つことになった。そしたら一時間早くやってきたから、どうしたの?とわかっていながらも聞いた。彼女は本当のことを言った。彼女は俺の好意を無駄にしたくなく、そう言ったのだと。いつも学校で時間を潰してから俺との待ち合わせに向かっているらしい。

「そういえばさ、この前のクッキー、美味かった」
「あ、本当…?良かった」
「また作ってきてよ」
「うん。他にも何かあったら、作ってくるよ。私お菓子作るの好きだから」
「女子って感じ」
「それ、クラスの子にも言われた」

彼女はよく笑うようになった。この笑顔、他の男には見せてないんだろうな。ちょっと嬉しいかも。俺は冷たい手を少し擦ってポケットの中に突っ込んだ。それをじーっと見ていたから、「何?」と聞くと彼女は少し笑った。

「手、大きいなって」
「そう?」

パッと手を出してみると、彼女は俺の手にペタッと自分の手をくっつけた。あ、暖かい。しかしちっちゃい手、指。

「すっごい大きいね」

ふふっと笑ってパッと離した。…なんか、何か可愛い。…そういえば俺こいつに一回だけ好きだったらどうする?とか聞いちまったんだよな。あれ覚えてるかな、覚えてるよな。勘違いしてるよな、俺がお前のこと好きだって。…あれ、あれは嘘なのか。

「あの、ね、二口君。よければでいいんだ。よければでいいんだけど、またこうやって一緒に学校行ったり、帰ったりしてくれる…?」

彼女の瞳はとても綺麗に輝いていた。俺はそれにたじろぎながらも「いいよ」と言うと、嬉しそうに頷いた。まだ少し足を引きずりながらも、足取りは軽かった。きゅん、と胸が。あれ?何だ今の。俺、どうしたんだろうな。

「佐々木って、顔にでやすい?」
「え、そんなことないよ。寧ろ逆だと思うけど」
「そうかな〜」
「どうしたの、急に」
「いや、俺がいいよって言ったら嬉しそうにしてたから」

そう言うと、ぽかんと俺のほうを見た。気づいてないのか?全く、こんな女子絶滅危惧種じゃないのかな。はあ〜とため息をつくと白い息が出たから、面白いとまたしてると、佐々木が黙っているから、どうしたのかなと見たら。

「え、え…?いやあのさ、どしたの?」
「…恥ずかしいなって。顔に出るの」
「うん。えっと、うん」

参ったな。どう返せばいいか分かんねえ。そんなこと言われたら何か、俺まで照れてくるじゃん。今きっと、俺たちみたらおかしいって笑うだろうな。俺もこいつも、顔が赤いんだから。

「…寒い」

何か話題を、と俺は呟いた。彼女はつんつんと俺の袖を触り、何?と聞くと、掌を見せた。「私の手、暖かいよ」と。俺はポケットに入れていた手を出して、彼女の手に絡めた。きみにとっての俺って、今どうなんだろう。付き合ってもないのに手は繋ぐのか。それともこれは――


20150825




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