Bitter Love | ナノ
「君さあ、もしかして菜月と一緒に学校行ったり帰ったりしてた子かなあ?」
「はい、そうですよ」

ニコニコッと笑うと、男は笑顔であった表情を瞬時に変え俺の胸倉を掴んでドアに叩きつけた。くそ、すげえ睨んでる。

「菜月に関わるんじゃねえ…殺すぞ」

ドスの利いた声。それはきっと脅しじゃないんだろうと思う。この男の手にはどこから出したか分からないが包丁を持っていて、ゆっくりと振り上げた。てっきり素手で来るのかと思って油断していた俺がバカだった。超怖い。だけど負ける訳には行かない。

「そうやって俺を殺して娘の親を犯罪者にするつもりですか?泣きますよ、あいつ」
「うるせえ!」

一瞬怯んだが、ぐぐぐ、と包丁を俺の首元に近づける。やべえ奴じゃないの、これ?こんなときでも頭は冷静だった。だって、この人だってバカじゃない。本気で人を殺そうなんて考えてないと思う。タタタタッと二階から降りてきた佐々木。まずい、こっちに来られたら困る。俺は何か言おうとしたが、包丁が近くにあるのもあって声がでなかった。

「っお父さん!?」

何のCDか分からないがそれをカシャッと下に落として俺のほうに走り出した。やめろ、危ない。男は胸倉を掴んでいた手を離してゆっくりと振り返る。包丁が近くに離れて俺はホッとした。

「何してるの…?やめてよ」
「何言ってんだ。お前が俺の言ったことを守らねえからだろ」
「っご、ごめんなさい…でも、でも二口君は私を助けてくれたから…」
「助けただあ?お前なんかあったのかよ」
「っや、それは…」

あのことを言ってないのか、佐々木は。まあ、言ったらどうなるかなんて俺は考えたくない。ハラハラとしながらそれを見ていたが、不穏な空気が流れっぱなしなので、俺はその中に入る事にした。

「さっきから聞いてたら、少し口悪いんじゃないんスか」
「はぁ?ガキは黙ってろ」
「そういうところもですよ。今だって佐々木怯えてます」
「何言ってんだ…なあ菜月…?」
「……」

佐々木は何も言わなかった。ゆっくりと歩いて来て男から包丁を離させた。「菜月…?」案外あっさり離すから俺は吃驚した。後ろのほうに包丁を置いて、「危ないからそんなもの二度と握らないで」ときっぱりと言った。何だ、言えるじゃないか。今だって手は震えているけど、大丈夫だ。CDを拾って男の横をすっと通り抜けた。「ついでに送ってくから」と。母親が帰ってくるのを外で待つのか、と俺は瞬時に悟った。今ここでは俺は何もしてやれそうにない。「お邪魔しました」と言ってドアを開けようとすると、俺の肩をガシッと掴んで倒れさせた。突然のことで意味が分からず、背中がジンジンと痛むそれに耐えられず声が漏れた。

「いけしゃあしゃあと帰ってんじゃねえよ!痛い目みねーとわかんねーのか!」
「お父さんやめて!」

殴りかかろうと馬乗りになった男に、佐々木が後ろから男の体を引っ張る。だけどその行為は無駄なようなもので形勢を変えて佐々木を押し倒した。狭い玄関に、俺みたいなでかいやつと佐々木が倒れたらそりゃもう狭く、身動きが中々取れない。急いで起き上がったが殴ろうとしていたのをやめて服を脱がせにかかっていた。俺は止めようと男の腕を引っ張った、ら――

「……何してるの?」

母親の帰宅と、来たようだ。


20150825





戻る

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -