Bitter Love | ナノ
「私…義父に…殴られたり、蹴ったり、体を触られたり、してる…」

初めて明かした彼女の言葉の一つ一つが、ずしんと体にくる。
やっぱり家庭内暴力…。思ってはいたけれど、俺の心に深く、土足で入ってきたその言葉は俺の体を重くさせた。

「それで…中学3年の時、義父に言われて…共学なんて入ったら許さない、俺以外の男に体を触れられたらそいつを殺してやるって…」

どきん、と胸打つ。だから君は俺から離れようとしたのか。朝早くでて夜遅く帰ってくるからおかしいと思われたのだろうか。たくさんたくさん考えてしまって、彼女は俺から離れようとしたのか。

「警察に…行こう」

行ったらきっと、お前にとってもいい結果が待ってるから。それでお前はもっと幸せな道を歩むことができるよ。

「怖くて…行けなくて…何度も、何度も行こうとした。だけど、私を殴ったり蹴ったりした後、必ず私を抱きしめて、お前を愛しているからなんだ、ごめん、ごめんって…そんなこと言われたら私、何もできない…」

もし自分だったらどうするだろうか。彼女のように黙って殴られて行為が終わるのを待つか。そもそも義父、というところから少し寒気がする。

「お前のお母さんは…?」
「お母さんは何も知らない。中々帰ってこなくて…。帰ってきても深夜とかだし、朝早く仕事に行くから」
「じゃあまずはお前の母さんに相談することだな。どうせしてねーだろ?」
「…してない」
「じゃ、言ってみな。一人で言うのが怖かったら、俺もついててやるから」

そういって頭をぽんと撫でると、コクりと頷いて、コケたときにふっとんだコンビニ袋をとりにいった。

「あ、絆創膏、貼ってなかったな」
「洗ってないしもういいや」
「血つくだろ。家に帰ってから剥がしてちゃんと消毒すればいいし」

そういって強引にペタ、と貼った。ゴミとかをポケットに入れてると、彼女はスクッと立ち上がり、携帯を持った。

「い、今から電話かけるから…そこにいて」

コクりと頷き俺は横に立った。震えながら携帯を持っているから、俺は開いてる手を自分の手に絡めた。ギュッと握ってやったら、チラりとコッチを見て、ニコッと笑った。

「………あ、もしもし、お母さん?今日帰ってこれる…?うん、うん、もうちょっと早く帰って、これないかな。あ、無理だったらいいから…」

緊張した声。いつも淡々と喋って無表情なのに、母親の言葉一つでパアアって明るくなったり暗くなったり。お前ってそんな顔するんだな、安心したよ。「うん、それじゃあ待ってる…」そういってタップする佐々木に手を離してどうだった?と聞いた。

「今から仕事片付けて帰ってくる、って…」

少し嬉しそうな表情に俺は笑みが零れた。そういえば、こいつの義父は…「お父さんはもう帰ってんの?」と聞くと、「今日は仕事休みだから…」瞬時に暗い表情に変わった。ということは、逃げてきたのか、はたまたおつかいに出されたか、だな。

「俺も一緒に待っててやろうか?」

すっげえ心配だし、帰ってまた殴られたりしたら困る。彼女はパアアと顔を明るくさせて、「お願いします…」と俺の手をキュッと握った。もうその行為に対して何も思わなくなった。俺だって勝手に手握ってるし。こんな可愛い子のね。そういえば彼女の家に行くのは初めてだ。初めてがこういう状況で、なんか、なんともいえねえ。ていうか時間…とりあえず母さんにLINE送っとこ。あー、明日の朝練響くかな。いいや、授業中寝ればいいし。ここ通ったな。ん、ここ?俺の家と近いな、結構。歩いて5分くらい。普通の一軒家で、俺は少しだけ緊張した。ドアを開けて「ただいま…」とか細い声をだしたら、「おっせーぞ」なんてガラの悪い声が聞こえた。彼女は俺の手を握り、「ごめんなさい、友達と会ってて」と言って俺を家にあげた。ひょこっと顔を出したその男は、若くて、目つきが悪かった。俺を見るなり、ギロッと佐々木をにらみつけた。ビクッと肩を震える佐々木を見て、俺はスッと前に立った。

「夜分遅くにすみません。俺、菜月さんの友達で、二口堅治って言います。今日は菜月さんに貸したCDを返してもらいたくて押しかけちゃいました。返してもらったらすぐ帰るので」

ニコニコと作り笑顔で男を見る。男はそれを聞くなり、「早く返してあげろ」と言って二階にあがらせた。チラりと俺を心配そうに見て、俺はニコッと笑った。大丈夫、この人より俺のがタッパあるし、いざとなったら、逃げればいい。怪我はしねーようにな。玄関のところで立っていると、男がゆっくりと俺のほうに近づいた。

20150825



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