わたしが二人と関係を持った翌朝から、彼らは揃って似たような質問をする事が多くなった。

「ねぇねぇまことちゃん、ボクとトキヤ、どっちとするのが気持ち良かった?」
「もちろん、私ですよね、まこと?」

「違うにゃ! ボクの方がまことちゃんを気持ち良くさせたに決まってるにゃー!」
「ハッ……、そんなはずないでしょう。ハヤトより私の方が大きいのですから、まことをより気持ち良くさせたのは私に決まっています。女性は大きい方がより気持ち良くなれるのですよね、まこと?」
「なっ……! そんなの、数ミリの違いだろ! ってゆーか鼻で笑うな!」
「……」

軽めの朝食を摂りながらハヤトとトキヤが案の定不毛な言い争いを始める。
彼らはいつもこうだ。朝食には似つかわしくない会話をも平気で口にする。アイドルの裏側を知るというのは非常に恐ろしい。
正直、ここまでディープな話を朝から頭に入れたくないのだが、彼らと同じテーブルで朝食を共にしている以上仕方がないといえば仕方がない。




「で、どうします?」
「まことちゃんはどうしたい?」
「え……?」

彼らの話をできるだけ理解しないよう聞き流していると、不意に彼らに声をかけられた。
わたしの向かい側で既に朝食を終えた彼らが揃ってこちらへ視線を寄越す。
先程まで言い合いをしていたはずなのに、彼らの皿にはもう何一つ残っていない。一体いつの間に朝食を口にしていたのだろう。そんなことを考えていると、ハヤトが心配そうにわたしの手を握った。

「まことちゃん、どうしたの? 具合悪い? ボクたちの言ってた事、聞こえてた?」
「あ……えっと……。ごめん、聞いてなかった」

ハヤトの手をやんわりと握り返し、わたしはほんの少し申し訳ない気持ちになる。ハヤトは純粋にわたしの心配をしてくれていたにも関わらず、わたしは彼らの会話を意図的に聞かないようにしていた。なんだかハヤトの気持ちを踏みにじったようでバツが悪い。

「えっと、ハヤトとトキヤくんは何の話をしてたの?」

今までの事を反省しつつ、ハヤトにそう尋ねる。
しかし、わたしはすぐにその反省が無駄なものだと思い知る事になる。


「だから〜、今日は三人でコスプレエッチしてみようと思うんだけど、まことちゃんはどんなコスプレしたい?」
「……」
「私としてはやはり、胸元のはだけたスカート超ミニセクシーナースなんか良いと思いますが」
「えーっ! だめだめ! まことちゃんにはふんわりドレスのお姫様が似合うにゃ!」
「……」

つい数秒ほど前のわたしの反省の気持ちは、彼らの会話によって粉々に掻き消されてしまったような気がした。

「はぁ……。馬鹿も休み休み言ってください。なぜ性行為に耽るのに、そんな格好をまことにさせなければならないのですか。そもそも裾の長いドレスになど興奮しませんし、行為の邪魔になるだけです」
「……ふふ〜ん。分かってないにゃ〜、トキヤ! ……清楚なお姫様を無理矢理犯すのって、意外とコーフンするものなんだよね〜」
「むっ、無理矢理!?」

トキヤの顔が一瞬にして紅潮した。意外と彼はシチュエーションフェチのようである。などと考えている場合ではなかった。

「だからボクがいつも言ってるだろ。セクシー系より清楚系の方が、エッチの時のギャップがあってイイ、って!」
「……なるほど。一理、ありますね」
「……」

色々と突っ込みたい気持ちを抑え、わたしは引きつった笑顔で彼らを見つめる。一体彼らは何を考えて日々生きているのだと問い質せずにはおれなかった。

しかし彼らはそんなわたしの心中など一切察する事もなく、なぜか頻りに頷き合いながら、まるでそれが最善の案だと合意していた。
いつの間に彼らはこんなに兄弟仲が良くなったのだろうか。不思議で仕方ない。


ぼんやりと彼らを眺めるわたしの気持ちは自分でも理解できぬ程複雑で難解だ。ここで生活を始めた当初、わたしはハヤトの彼女だという確固とした自信があったのに、今ではそれがほぼ半減している。
原因はもちろんトキヤだ。
彼に迫られるまま彼を受け入れたわたし。些細な言い争いはするものの、それ自体を黙認するハヤト。わたしは今、ちゃんとハヤトの彼女なのか、自信がない。

目の前で楽しそうな会話を続ける彼らに、改めてそれを問う勇気は、今のわたしには到底無かった。




「というわけでまこと、今日は私とハヤトの仕事が午後八時には終わりますので、駅前で待ち合わせをしましょう」
「え……なんで?」

少し考え事をしているうちに、またもや話が飛んでいた。
いつの間に待ち合わせなどという事になったのだろう。
そもそも彼らは人気絶頂のアイドルで、そんな彼らが人目の多い公共の場でわたしと待ち合わせをするなんて危険極まりない。不審に思ったわたしは無意識のうちに思った事を口にしていた。それを聞いたトキヤがうっすらと笑みを浮かべる。

「まこと、何を決まり切った事を聞いているのです? そんなの、今夜使う私たちのコスプレ衣装を買いに行くために決まっているじゃありませんか」
「……」
「ボク、そういう衣装がいっぱい揃ってるとこ、昨日四ノ宮くんに教えてもらったんだ〜! まことちゃんに似合うドレス、ボクが買ってあげるからにゃ!」
「……」

ハヤトとトキヤがそう言い切ると、揃って席を立った。最早ハヤトが何と言って那月からそのショップ情報を引き出したのかと考えると、途端に頭が痛くなる。

「まことちゃん、ボクたちもう行くね」
「私が居ない間、寂しい思いをさせてしまいますが、我慢してくださいね」
「はいはい」

わたしが無愛想な生返事を返すと、彼らはいつものように笑顔を見せ、食器を片付ける。

今日も彼らは朝からみっちりスケジュールが詰まっているらしい。
ソファに用意されている鞄を掴み、二人が足早に玄関へ向かった。わたしはそのあとをゆっくりと着いて行く。

「まことちゃんまことちゃん、いってきますのチューして?」
「まこと、私にも行ってきますのキスを」
「……」
「早く早く! 遅刻しちゃうにゃ!」
「まことがしないのなら、私からしますよ?」
「……ん」

わたしは彼らに請われるまま、二人の唇にキスをした。
トキヤがそのまま舌を入れて来ようとしたので、腹いせに彼の髪の毛をぐしゃぐしゃにしてやったら、一時間もかけたセットが、と慌てていたので、ほんの少し腹の虫が治まった。



二人が行ってきますと言い、仕事へと出かけて行った。

その場で立ち尽くすこと数分間。わたしは先日から片時も頭から離れない自分のふしだらさと葛藤していた。

このままでいいのだろうか。
このまま、ぬるま湯にたゆたうような甘美な生活に溺れてもいいのだろうか。

わたしは今でもハヤトの彼女なのだろうか。そしてわたしはトキヤが好きなのだろうか。

自分でもよく分からない感情を何度も反芻し、結局収拾し切れない想いがため息と共に流出した。





1/1
←|→

≪ボクがキミの王子様
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -