その日わたしがファミレスでの打ち合わせを終え部屋に帰ると、なぜかハヤトとトキヤが笑顔でわたしを迎えてくれた。

「おかえり、まことちゃん!」
「おかえりなさい、まこと」

いつもならこんな時間には居ないはずの二人なのに、さらにはこんなに仲良く出迎えなどする二人でもないはずなのに、今日はなんだかとてもおかしい。特にトキヤの笑顔にはほんの少しサディスティックさが含まれているような気がするのは、おそらく気のせいなどではないように思う。

「……た、ただいま」

二人を警戒したまま三和土へ靴を脱ぎ、室内に上がる。
その瞬間、突然わたしの体がふわりと宙に浮いた。数秒間何が起こったのか全く分からず、しかしそれを認知した頃には既に遅く、結局わたしは両側からわたしを抱き上げる彼らに身を任せるしかなかったのだった。


「ハ、ハヤト、トキヤくん、何、してるの……?」
「ん〜、ちょっと待っててにゃ? すぐ自由にしてあげるから」
「そのまま大人しくしていてくださいね。でないと、お仕置きですよ? ……私の狂暴な下半身で」
「……」

相変わらずトキヤが堂々としたセクハラ発言をかますが、わたしはあえてそれを聞き流した。彼のこういう発言に対する一番効果的な対処法は、完全に無視することだと今までの経験で思い知っていたのだ。
彼らに抱き上げられて運ばれるわたしは、これから何が起こるのだろうと不安な気持ちでいっぱいだったが、トキヤのいやらしいセクハラ発言のおかげか、なぜだか少しだけ緊張の糸が解れた。




「……それで、これは一体何事?」
「うん、えっとね、実はね……」

ハヤトの寝室に着くやいなや事の次第を問い質すと、彼はすぐにわたしをここへ運んで来た理由を話し始めた。その表情は終始変わらぬ笑顔で、わたしに不安感を与えた罪悪感など微塵も無さげである。ほんの少し呆れたようにハヤトを睨むも、彼はわたしと目が合うとお決まりのようにニッコリと微笑んだ。彼のその笑顔に、わたしは急に毒気が抜かれたような気がした。

「実はさっき、ボクとトキヤでDVDを見たんだ」
「DVD?」
「うん。そのストーリーがすっごく感動的でさ、ボクたち感銘受けちゃって……ぐすっ」
「えっ……ハヤトなんで泣いてんの!?」

先ほど見たDVDのストーリーとやらを熱弁する前に、ハヤトが何かを思い出したらしく、うるうると目を潤ませる。その姿は可愛いけれど、これでは全く話が進まない。わたしはハヤトから目を逸らし、トキヤに視線で続きを促した。

「……仕方ありませんね。それでは私が説明しましょう。そのストーリーというのは、男性二人に女性一人が共同生活をしているところから始まるのですが」
「男二人に女一人が共同生活……?」

まるで今のわたしたちのような境遇のストーリーに一瞬驚く。
トキヤはわたしが表情を固めた事に気付くと、僅かに口角を上げて笑った。

「ええ。まぁ、つまらない前置きを話すのは面倒なのでクライマックスまで割愛しますが」
「えっ!?」
「結局最後に彼らは朝から晩まで三人で乱交に耽り、女性は彼らの妻と愛人になる事でハッピーエンドを迎えるのです」
「うう……ラストはほんと感動したにゃ〜」

「え……ちょ、ちょっと待ってよ。いきなりクライマックスとか言われても意味分からないし、だいたい今の説明の中にはどこにも感動する場面なんか見当たらないような気がするんだけど……。っていうかなに? それっていわゆるアダルトDVDじゃないの?」

わたしの突っ込んだ詰問に答えるかの如く、トキヤがさらに行為の内容を事細かに話す。それは聞いてはいられぬ程生々しく、さらにトキヤがここまで行為の内容を細部に渡るまで覚えていた事に、わたしは若干引かざるを得なかった。

未だほんのりと目を潤ませているハヤトがわたしにDVDの入ったパッケージを寄越した。透明なパッケージに入ったディスクには卑猥な男女の絡みがモノトーンで印刷されている。見ただけで明らかに感動モノではないことが分かるが、彼はこのDVDから一体何の感銘を受けたというのだろうか。わたしはハヤトのその感受性を疑った。

小さなため息を吐き、そのDVDをハヤトへ返そうとしたその時だった。
不意にその端に貼り付いていたバーコードに目が留まる。良く思い返すと、そのパッケージにはずいぶんと見覚えがあった。

「……」

そのパッケージは、わたしたちが良く利用するレンタルショップのものだった。バーコードの端には、そのレンタルショップの屋号が印刷されており、疑惑が一気に確信へと変わった。
しかしまさかとは思うが、アイドルが堂々とアダルトDVDを近所のレンタルショップで借りてきたのだろうか。わたしはこれ以上考えるのが恐ろしい。

「……ねぇ、これ、まさかハヤトかトキヤくんが借りてきたの?」
「ええ。私が借りてきましたが、何か?」

わたしの心配とは裏腹に、トキヤが堂々とそれを借りてきた事を自白する。わたしには最早脱力感しか残されていなかった。

「どうしたのですかまこと。もしや私がアイドルなのに、近所のレンタルショップでこういういかがわしいDVDを借りてきてしまった事を心配してくれているのですか?」
「……」

ベッドに座るわたしの隣に腰を下ろし、トキヤがさりげなくわたしの腰に手を回した。もう抵抗するのも面倒くさいので敢えて逃げる事はしなかった。

「ふふ、大丈夫ですよ。そこはもちろん私だって考えています。実は借りたのは私であって、私ではないのです」
「え……?」
「先ほど出かける前にハヤトの会員カードを拝借したので、ついでにハヤトになりきって堂々と借りてきました」
「ええっ!?」

全く悪びれる様子もなくそう言い放つトキヤに、それを全く気にしないハヤト。彼らは意外に気が合うのかもしれない。
そもそも他人のカードを利用するのは良くない事のように思うが、当のハヤトが全く気にしていないので、わたしが口を出す問題でもない。ような気がした。



「で、でも、これを見た事と、わたしをここまで連れてきた事と、何の関係があるの?」

わたしのこの一言で、彼らの目の色が再度変わった。

「も〜、まことちゃん、分かってるくせに、ドSだにゃ〜」
「ハヤト!?」

ハヤトが急に甘えたような表情でこちらへもたれ掛かり、さらにゆっくりとわたしをベッドへ押し倒す。

「そうです。何のために私とハヤトがこんな前置きをまことに話したと思うのですか? それはもちろん、このDVDのように、私たちも三人で行為に耽るためです」
「そ〜そ〜!」
「は……いぃっ!?」

いつの間にかトキヤも私を押し倒しており、男二人がかりで押さえ込まれては逃げ出す事もできやしない。一体どうすればこの窮地を乗りきれるかと考えたが、こんな状況で思うように頭が回る訳もなく、わたしは完全にパニックに陥っていた。

「どうですかまこと。あなたと性交するために、しっかりとムダ毛も処理しておきました」
「へ……? や、ちょっと!? 分かったから! 脱がなくていいから!」

トキヤがいそいそと服を脱ぎ、それに釣られるようにハヤトも素早く服を脱ぎ捨てた。本人が宣言していた通り、トキヤの身体には無駄なものは一切無かった。しかしそれはそれで目のやり場に困る。
わたしが顔を熱くしていると、トキヤがいやらしく口角を上げて笑った。

「さ、次はまことの番ですが……今回は特別に私が脱がせてあげましょう」
「えーっ!? ちょっと待った! まことちゃんを脱がせるのはボクのはずだろー」
「いいえ。ハヤトはいつもやっているのですから、たまには私にその役目を譲ってください」
「えー……」

めずらしくハヤトがそれ以上反駁せず、トキヤにその役目を譲った。恋人ならば譲るなとも思ったが、既に現在はそれを言うのも場違いなようなので、わたしはささやかな抵抗混じりに黙って彼らを睨んだ。

「おや、その目……興奮しますね」
「や、やめてよ変態!」

わたしの軽蔑の眼差しに気付いたトキヤがそれすらをも華麗に受け流し、買ったばかりのわたしのブラウスを強引に左右に引き裂いた。これではまるで強姦だ。

「や、やめて!」
「そうそう、あのDVDでも女の子は最初は拒んでたんだよね〜。でもボクたちがいっぱい愛してあげたら幸せだって言ってくれるんだよにゃ?」
「だからそれはフィクションだからっ!」

既にハヤトが別の意味での戦闘モードに突入していた。

「まことちゃんってマシュマロみたい」
「え? ひゃあっ!」

ハヤトはわたしの制止が耳に届いていないのか、まるで狼に豹変したが如く無理矢理ブラジャーを上へずらし、そこへ顔を埋める。その瞬間から繰り出されるハヤトのキスがくすぐったくて、わたしは身を捩って抵抗した。

「まことちゃんのおっぱい気持ちいいにゃー! んー、ちゅっ!」
「ふぁ……んっ」
「まこと……あなたがあんまりいい声で鳴くものだから、私の下半身が暴れだしたじゃないですか。責任、取ってくださいね」
「そ、そん、な……」
「大丈夫だよまことちゃん! ボクとトキヤがいっぱいいっぱいまことちゃんを愛してあげるから」

数分前のわたしには、そんなつもりなど全くなかったというのに、わたしは彼に、いや、彼らにどんどん毒されていっているような気がする。
もしかしたらわたしは、知らぬ間に彼らに調教されてしまっているのかもしれない。



「考え事は、行為の後で、お願いします」
「そうそう! 早くまことちゃんが気持ち良くなるように、ボク、こっち、舐めてあげる!」

ハヤトがあっという間にわたしの足から下着を抜き取り、ごく自然にわたしの性器へ舌を這わせた。あまりにも突然の快感に、わたしは数秒後、とうとう理性を手放してしまうのだった。



「ああ……これでようやくまこととひとつになれるのですね……」

わたしが理性を保っていた意識の中で見た最後の映像は、トキヤが陰茎を扱きながら避妊具を着けようとしていた姿だった。






1/1
←|→

≪ボクがキミの王子様
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -