「おいおい、お前いい加減にしろよ」

室内に佐武くんの呆れた声が大きく響き渡った。

佐武くんがこんなに呆れ返っているのにはそれ相応の理由がある。
その原因はもちろんわたしなどではなく、目の前にいる皆本くんのせいである。

私の目の前で背筋を伸ばし、きちんと正座する彼は、忍術学園六年は組の皆本金吾といい、私の恋人でもあった。
彼は元々生真面目な性格で割と古風な男だが、私はそんな彼が格好良いと思ったし、だから少々恥ずかしかったが、自分から交際を申し込んだりもした。
剣術の道を歩む彼はいつでも礼儀正しく、恋人である私ですら時折その言動に苦笑する事があった。

交際は一応順調だった。
真面目な彼は浮気など絶対にしなかったし、慣れないながらも休日はわたしを町へ連れて行ってくれたりもした。皆本くんは私の理想通り、無骨だけれどとても優しい人だった。

だがしかし、わたしにはひとつ誤算があった。

それは、皆本くんが人一倍嫉妬深いという事だ。



「虎若、いい加減にしろなど余計なお世話だ。俺とももの事はお前には関係のない事だ」
「そりゃそうだけどさ……、でもな、お前らの話を聞く限り、金吾はももを束縛しすぎだろ」
「俺がももを束縛……? 意味が分からない」
「……」
「……」

佐武くんが落ち込んでいくのが分かる。
これは先ほど通りすがりだった佐武くんに交際は順調かと聞かれ、何の気もなく私たちの事を話したのが切欠だった。私たちの交際内容を適当に話していくうちに、佐武くんの表情は次第に険しくなっていった。
佐武くんが言うには、私は皆本くんに相当束縛されているらしい。

しかし佐武くんがそれを指摘しても、皆本くんは全く心当たりが無いようで、眉ひとつ動かす事はなかった。


「何言ってるんだよ金吾。束縛、してるだろ? ももが男子生徒と必要以外話す事を制限するとか、女友達と遊ぶ時もちゃんと報告しろとか、いくらなんでも俺でも引くぞ」
「なぜだ。俺はそれが当たり前だと思っているし、何もももにばかり無理強いをしている訳じゃない。もちろん俺だってそうしてる」
「だがな……」
「だから、俺とももは対等だ」
「あー……もう話にならん! 勝手にしろ!」
「あ、佐武くん!?」
「もも、金吾に嫌気がさしたら俺のとこに来いよ。俺、ももの事、絶対に金吾より幸せにするから」
「虎若! それは一体どういう意味だ!」
「じゃあな!」

成り行きで皆本くんに説教をしていたはずの佐武くんはついに呆れ果て、ずいぶん憤慨しながら部屋を出て行ってしまった。更には最後に有り得ない程の言葉を残して。
しかしそれはそれとして、普段温厚な佐武くんをここまで憤慨させるなんて、皆本くんの頑固さも筋金入りだ。確かに佐武くんの言うとおり、皆本くんは私を束縛していたかもしれない。私はどこへ行くにも行き先を彼に告げねばならなかったし、少し男子生徒と話していただけで後々話していた内容を根掘り葉掘り聞かれたりもした。だが、私はそれが嫌だと感じたことは一度も無かった。



「……やはり虎若もももを慕っていたのか」
「え?」
「……」
「……」
「……」
「……」

皆本くんはしばらく私と目を合わせては逸らし、とても気まずそうに俯いていた。

「……皆本くん、あの」
「ももっ!」
「えっ!? な、なに!?」

何とか声をかけようして彼の名前を呼んだ瞬間、皆本くんは私を大声で呼び、その真剣な眼差しでこちらを睨んだ。

なぜだか私が口を挟んではいけないような気がした。

「……」
「……」
「……その、虎若の、事だが」
「……」
「ももは、虎若の事を、どう思っているんだ」
「え……どうって……」
「……分かっている。俺は男のくせに広い心など持ち合わせてはいないし、狭量なのは自分でもじゅうぶん過ぎるほど分かっているんだ。でも」
「……」
「やはり俺は……ももを誰にも渡したくない」

目の前で正座する姿を崩さぬまま、皆本くんがそう言った。
元はといえば私が皆本くんに交際を申し込んだ立場で、そんな私が心変わりなどするはずもないのに、生真面目な彼はそれら全てを真に受け、真剣に考えてしまったのだと思う。

私は改めて彼の目の前に正座し、三つ指を立て、頭を下げた。

「え、ええと。ふつつか者ですが、これからもよろしくお願いします……」
「……もも」

顔を上げると、皆本くんの頬が私にも分かる程紅潮していた。

「おっ、俺の、いや、私の方こそ、これからもよろしく頼む」

私と同じように皆本くんもその場で丁寧に頭を下げる。

きっと私と彼は相性が良いのだ。私は彼がどうすれば喜ぶのかを知っているし、彼に喜んで貰えれば私も嬉しい。
交際を始めたばかりの私たちにはお互いが知らない一面もまだまだあるだろうけれど、彼のする事になら私はいくらでも耐えられる自信がある。それだけ私は皆本くんが好きだし、束縛される事で愛されていると感じる事もできるからだ。

やはり私にとって皆本くんは運命の人に違いなかった。






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